遺伝子の不都合な真実 すべての能力は遺伝である

遺伝子の不都合な真実 すべての能力は遺伝である
安藤 寿康 筑摩書店 2012

内容、カバー折口より

勉強ができるのは生まれつきなのか?仕事に成功するための適性や才能は遺伝のせいなのか?IQ、性格、学歴やお金を稼ぐ力まで、人の能力の遺伝を徹底分析。だれもがうすうす感じていながら、ことさらには認めづらい不都合な真実を、行動遺伝学の最前線から明らかにする。親から子への能力の遺伝の正体を解きながら、教育と人間の多様性を考える。

感想

・本書は、「人間の能力や性格など、心のはたらきと行動のあらゆる側面が遺伝子の影響を受けている」p7という、当たり前のことをこれまでの研究史を整理しつつ紹介し、しかしその当たり前の事実が「不都合な真実」として無視されている、と指摘している。その原因として、「単に一部の人たちの私利私欲や利権だけでなく、私たちのだれもが抱くささやかな願望や善意や誠意にもある」p14、からだそうだ。
そして遺伝子が影響していることを「不都合な真実」として目を背けるのではなく、遺伝子の影響をふまえてよりよい社会、自由で平等な社会をどのようにつくっていくか考えることが大切、と述べている。

私自身、高校生のころから進化心理学が好きで関連書を読んできたので、本書の指摘はごくごく当然だと思った。(副題がオーバーだけどね)
本書を読んでいて、大学の社会学の教授が「現在の社会学は、進化心理学の知見をあまりに無視している」と述べていたことを思い出した。本書にも同じことが指摘されていたからである。
ただ僕が大学生だった当時から5年ほどたった今、進化心理学の知見を元に議論している人がだいぶ増えたように思う。いいことだ。

メモ

・「人間の能力や性格など、心のはたらきと行動のあらゆる側面が遺伝子の影響を受けている」ということは、主として双生児の研究によって明らかにされてきた。

・ゲノム科学の発達により、特定の人物について遺伝情報から理解することが当然になるだあろう。学歴や収入のように、人格を評価するものとして、遺伝情報がついてまわるようになるだろう。p112

・遺伝子一つ一つの影響力は基本的に低い。いろいろな遺伝子が組み合わさって全体として外部に発現する。基本的に、遺伝子の一つがどれか特定の能力のみに関わって、他の能力には関わらないということはない。現在の科学技術では遺伝子から具体的な知能や性格の予測するのは不可能。p126

・人類史の長い時間のなかで、民族や性別によって異なる環境と分化に対する異なる適応の仕方をとってきた。よって人種によって認知能力や行動特性に遺伝的差違があったとしても不思議ではない。ただ、集団間の平均値の差違よりも、集団内のばらつきの方が大きく、重要なのはその人がどの集団の人間かということではなく、その人自身がどんな人かということ。 そうあってほしいという期待を元に現実をねじ曲げるのは、科学的態度とはいえない、とも。
p188