Another

Another
綾辻行人 H21 角川書店

内容(「BOOK」データベースより)

その「呪い」は26年前、ある「善意」から生まれた―。1998年、春。夜見山北中学に転校してきた榊原恒一(15歳)は、何かに怯えているようなクラスの雰囲気に違和感を覚える。不思議な存在感を放つ美少女ミサキ・メイに惹かれ、接触を試みる恒一だが、いっそう謎は深まるばかり。そんな中、クラス委員長の桜木ゆかりが凄惨な死を遂げた!この“世界”ではいったい、何が起こっているのか?秘密を探るべく動きはじめた恒一を、さらなる謎と恐怖が待ち受ける…。

感想

○謎解きの答えとなる人物がラストで明らかにされる。
その人物と主人公との関わりをもっと描くべきだと思った。
二人のあいだに豊かな交流があってそれを描いてこそ、主人公の葛藤は大きいだろうし、その葛藤が身に迫って読者に伝わるからだ。しかし、本書にはそれが欠けていた。

二人のやりとりがあまり描かれなかったのには理由があるんだと思う。それは謎解きのヒントになりかねないからだろう。
主人公に身近な人物が答えであるほど、読者の驚きは大きい。文学として成功しているわけだ。したらば、そういう身近な人物を疑ってみる。ミステリーの愛好家ならまず考えることだろう。
そうやってヒントになってしまうことを避けるために、あえて淡泊に人間関係を描いているのだと思った。

ただ、答えがばれやすくなるというマイナスがあっても、優先するべきは、読後に心が素直に動かされることではないか。私はそう思うのだ。
その点で、本書はもの足りない、と思った。

○フィクションとはいえ、荒唐無稽なこともおこるホラー小説とはいえ、ちょっと、本小説の論理は無理があるんじゃないかなあ。

かつて、某クラスで人望ある人物が亡くなった。悲しみにくれたクラスメイトたちは、そのなくなった人物をいるものとして扱った。翌年以降、そのクラスでは死人が続出するようになった。呪われたクラスとなったのである。
それに対する1人を無視するという解決策。
それが失敗したときの、2人を無視するという解決案。

惨劇が起こるきっかけも、その解決策も、本小説では何とか理屈をつけようとしていたけれど、あまりに強引でその論理は全然通っていなかった。

いくらフィクションとはいえ、説得力をもたせるため、リアリティをもたせるため、その世界で通用する「論理」というか「理」、「筋」、「約束ごと」といったものを提示し、それにそった世界観を組み立てるのが一般的ではないか。
例えば、「攻殻機動隊」であれば、脳みそから直接データを送信し、機械を動かす電脳化技術の存在。高度に発達した機械工学。それらが前提となる社会システム。
攻殻機動隊」はこれらを丁寧に描き、その世界での「論理」を通し、説得力をもたせた。

さればこそ、読者は架空の世界観、実験場のなかで安心して考えることができるし、登場人物たちの喜怒哀楽に自然に共感できると思うのだ。


本書、「Another」には、これが欠けていたと考える。