この世でいちばん大事な「カネ」の話

この世でいちばん大事な「カネ」の話
西原理恵子 2008 理論社

内容(「BOOK」データベースより)

「生まれて初めて触ったお金には、魚のウロコや血がついていたのを覚えている」―お金の無い地獄を味わった子どもの頃。お金を稼げば「自由」を手に入れられることを知った駆け出し時代。やがて待ち受ける「ギャンブル」という名の地獄。「お金」という存在と闘い続けて、やがて見えてきたものとは…。「お金」と「働く事」の真実が分かる珠玉の人生論。

感想

○貧困、貧しさが心の余裕を奪い挙げ句の果てには荒ませてしまうこと、貧しい地域で蔓延していた暴力、非行、貧困と暴力の連鎖、そして仕事の大切さなどが語られている。
書いていることは別段当たり前のこと。そうなんだけれど、語りかけるような口述の語りと、著者自身の過酷な経験を紹介しそれを出発点に語られているので、著者の主張がすっとふに落ちて実感をもって感じられた。

○高校を相手に裁判を起こしたり、美大在学中にエロ系の出版者にまでイラストを売り込みに行ったりと、著者の行動力のすごいことすごいこと。

○もっとも、著者の語る人生論とか仕事論とかお金論とか、読む価値があるのだろうか、と思ってしまった。

著者が述べているのは自分や家族のことばかり。
社会に目を向けていない。
確かに、著者は逆境をはね返しマンガ家、イラストレーターとして成功した。確かにマンガを通して多くの人を感動させてはいるのだろう。だが、大人として、もっといえば成功したものとして、社会をよりよく変えていこうと行動しているエピソードはなかった。志も述べられていなかった。ギャンブルで大金を溶かしてきたことを半ば自慢気に語られても困惑するだけである。

社会に目を向けるのではなく、自分や家族のことばかり気にしていてもいい。僕だってそうだ。人間は一人で勝手に生きて一人で勝手に死ぬのだ。
だが、そういう器のサイズの人物の言説など、貴重な時間を削ってまで読む価値はない、と思ったのである。