浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか 仏教宗派の謎

浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか 仏教宗派の謎
島田 裕巳 2012 幻冬舎

内容、カバー裏より

日本の仏教はさまざまな宗派に分かれており教義や実践方法が大きく異なる。にもかかわらず多くの人、とくに地方から都会に出て菩提寺とのつきあいを絶った人は関心を持たない。だが親や親戚の葬儀を営む段になって途端に宗派を気にするようになる。家の宗旨に合った僧侶を導師として呼ばねばならないからだ。そこで初めて「うちは○○宗だったのか」と知る。そもそも宗派とは何か。歴史上どのように生まれたのか。本書は、日本の主な仏教宗派を取り上げ、その特徴、宗祖の思想、教団の歩み、さらに他宗派との関係、社会的影響をわかりやすく解説した。

感想

書名と内容に著しい相違がある。書名は「浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか」、というはやりの新書のような中身の薄っぺらそうなものになっているが、実際の中身は

「日本の主な宗派を取り上げ、その特徴、宗祖の思想、教団としての歩み、さらには他宗派との関係や、社会に対する影響」について整理している。

仏教諸派に詳しい人にとっては掘り下げの薄い点もあろうが、そもそも仏教に宗派があることもろくに知らないような一般人(私)にとってはたいへん勉強になる本だった。

各宗派の概略を知ることにより、仏教宗派の位置づけを俯瞰的に捉えることで、日本における仏教信仰の実際の有り様をつかもうとする本、といえよう。

南都六宗天台宗真言宗、浄土宗、浄土真宗臨済宗曹洞宗日蓮宗、などを取り上げている。

せっかくいい内容なのだから、書名も世間にこびを売ってスカスカったものをつけるのではなく、実際の内容に即した書名をつけて良かったのではなかろうか、と思った。

メモ

第二次世界大戦後、僧侶の世襲の傾向が強まる。

○「宗教に宗派はつきもので、どこでも分裂や分派がくり返されていくが、その背景には民族の違いや地域差、あるいは社会階層などが関係している」p40

○「龍樹の思想の根幹には『空』の考え方がある。空とは、この世界に存在するものはすべて実体をもたないもので、関係性のなかでのみその固有の性格を示しているという認識である。それを端的に表現したことばが『一切皆空(あらゆるものは空である)』で、大乗仏典のなかの、とくに『般若経』で展開されている。」p42

南都六宗(法相宗華厳宗律宗)はもともと朝廷による支えがあった。ゆえに経済的な支援をしてもらう檀家もなければ、墓地もないし、葬儀も行わない。

○中世の興福寺延暦寺は武力だけでなく大工や各種職人を抱え、さまざまな産業を担っていたうえに、金融活動も行っていた。今でいうゼネコンや商社、銀行を足し合わせたような機能を有していた。絶大な影響力をほこっていた。

南都六宗神仏習合の傾向を強めた。そのため明治の廃仏毀釈では大ダメージを受けることになってしまう。

○近代に入り経済的に厳しくなった南都六宗を、学生の修学旅行で落ちるお金が救う。

天台宗は仏教宗派として総合的な性格をもっており、多様な宗教思想を取り入れている。あらゆる仏教の流れ、儒学なども学ぶことができ、日本仏教史上において多くの優れた人材を輩出。

比叡山が力をもった理由の一つに、京の中心にある祇園社を勢力下においたことがあげられる。

浄土真宗が多い理由⇒庶民の信仰だから
            ↓↓↓
僧侶と信徒の間に断絶がない(出家なし)
僧は子をもつこともでき、縁戚関係によるネットワークを構築
民衆を教化する絵巻がはやる
教義がシンプル
救いを得る方法が簡単