メイド イン ジャパン 驕りの代償

メイド イン ジャパン 驕りの代償
井上 久男 2013 NHK出版

内容(「BOOK」データベースより)

経営者という人材の劣化が組織の中から異質な考えを排除することを招き、それが「新しい価値」の創出を阻み、「メイドインジャパン」の衰退を加速させている。家電・自動車業界は浮上するのか。企業そして日本再生への道を探る渾身のノンフィクション。

メモ

○企業においては、働いている人々の多様性を維持されていることが大切。

○真に有能な人を後継者に。

○部門を横断して人と権限と技術を集め進められたプロジェクト(チーム)が成功する例がみられる。なお、各部門における人材の囲い込みを禁じ、各部門に属していたエース級の人材を送ってくるようなシステムにする必要がある。

○企業から広告費をもらっている大手メディアは、企業体質などを批判しにくい。

感想

○書いていることは、まあ、よく言われていることで、そうなんだろうなあ、と思うことばかり。ただ、どこに本書の新味があるのかいまいちよくわからなかった。メモを見てもわかると思うが、この程度の内容が2013年(今年)に出るって、かなり遅れた、陳腐な本では?

パナソニックやシャープの、社長をはじめとする経営陣の経営力のなさを厳しく非難している。確かに経営においては結果が全て。「勝つこと=善」が大前提なのだと思う。その点、パナやシャープの経営陣は厳しく非難されるべきだろう。

もっとも、著者はその失敗の理由を本書の中心として論じているが、それが非常にうさんくさく、考察の足りないものだった。
まず著者の記述にいえるのは、一例二例のみを主張の根拠にあげていること。これだけ多くの企業が存在し、栄枯盛衰、うまくいったところもあれば落ちぶれていったところもある。ごく一部の大大企業にだけ着目するのではなく、もっと多くの例に当たらなければ、失敗の本当の理由など断定できないのではないか。

そう、本書はパナソニックやシャープは経営に失敗したという結果だけをみて、それに合うように失敗した理由を適当に見繕っているように読めてしまうのである。
例えば、海外投資に成功すればそれをほめるし、逆に海外投資に失敗すればそれをけなすという矛盾が本書には生じてしまっている(一応おもいつきの理由をくっつけているが)。結局、海外投資は是なのか非なのか。もしどちらにも転がりうるのなら、両者を分かつものは何なのか。そこを丁寧に論じなければいけないのだ。
なぜ、とある企業は失敗したか? 各企業は、規模、業界の特性、産業の特性、資産や技術の有無、強みなどなど、とにかくそのおかれた状況・環境は個々で全く違う。ゆえに、とある企業がなぜ失敗したか? という問いに答えるには、丁寧な議論を組み立てていくことが必要なのだ。
本書はそのレベルに達していない。ただの思いつきのグチに終わっている。議論が雑なのである。