ぼくには数字が風景に見える

ぼくには数字が風景に見える
ダニエル・タメット (著) , 古屋 美登里 (翻訳)  原著2006 講談社

ぼくには数字が風景に見える

内容(カバー折口より)

著者ダニエルは、数学と語学の天才青年です。それは、ダニエルが映画『レインマン』の主人公と同じサヴァン症候群で、数字は彼にとって言葉と同じものだから。複雑な長い数式も、さまざまな色や形や手ざわりの数字が広がる美しい風景に感じられ、一瞬にして答えが見えるのです。ダニエルは、人とのコミュニケーションにハンディをもつアスペルガー症候群でもあります。けれども、家族や仲間の愛情に包まれ、一歩ずつ自立していきます。本書は、そんなダニエルがみずからの「頭と心の中」を描いた、驚きに満ち、そして心打たれる手記です。

メモ

「 ぼくが生まれたのは1979年の1月31日、水曜日。水曜日だとわかるのは、ぼくの頭のなかではその日が青い色をしているからだ。水曜日は、数字の9や諍い(いさかい)の声と同じようにいつも青い色をしている。ぼくは自分の誕生日が気に入っている。誕生日に含まれている数字を思い浮かべると、浜辺の小石そっくりの滑らかで丸い形があらわれる。滑らかで丸いのは、その数字が素数だから。31,19,197,97,79,1979はすべて、1とその数字でしか割ることができない。9973までの素数はひとつ残らず、丸い小石のような感触があるので、素数だとすぐにわかる。ぼくの頭のなかではそうなっている。(略)
 数字はぼくの友だちで、いつでもそばにある。ひとつひとつの数字はかけがえのないもので、それぞれに独自の「個性」がある。11は人なつこく、5は騒々しい、4は内気で物静かだ(ぼくのいちばん好きな数字が4なのは、自分に似ているからかもしれない)。堂々とした数字(23.667.1179)もあれば、こぢんまりした数字(6.13.581)もある。333のようにきれいな数字もあるし、289のように見映えのよくない数字もある。ぼくにとって、どの数字も特別なものだ。
 どこに行こうとなにをしていようと、頭から数字が離れない。ニューヨークでデイヴィッド・レターマンの番組に出演したとき、ぼくはデイヴィッドに、あなたは数字の117(背が高くて痩せている)にそっくりですね、と言った。収録後に外に出て、タイムズ・スクエア(スクエアは数字にちなんだ名前だ)の高層ビル群を見上げたとき、9(無限に広がる感覚とつながっている数字)に囲まれている感じがした。
 数字を見ると色や形や感情が浮かんでくるぼくの体験を、研究者たちは「共感覚」と呼んでいる。共感覚とは複数の感覚が連動する珍しい現象で、たいていは文字や数字に色が伴って見える。ところがぼくの場合はちょっと珍しい複雑なタイプで、数字に形や色、質感、動きなどが伴っている。たとえば、1という数字は明るく輝く白で、懐中電灯で目を照らされたような感じ。5は雷鳴、あるいは岩に当たって砕ける波の音。37はポリッジのようにぼつぼつしているし、89は舞い落ちる雪に見える。」p13

感想

○著者は、サヴァン症候群であるが言語能力に障害がないため、共感覚を、その持ち主の目線から説明できる希有な存在(サヴァン症候群には言語能力に障害のあるものが多いそうだ)。

○著者は、数学と語学の面で著しい能力を発揮。
高度な暗算、円周率の暗記、過去の日付の曜日あて、極めて早い外国語の習得など。

素数は美しいと主張。
へえ、、、。よく他の本でも素数が特別扱いされて語られるのを目にするが、学問としての数学においても、素数には特別な意味があるのだろうか。

○数字に色や形などが伴って見えるそうだが、数字の暗算も計算式を見ることによって無意識に行われる色や形の変化を読み取ることでできるらしい。
おもしろいなあ。人間の脳みそや精神って不思議!

○著者の両親の、息子である著者に対する愛情が強く感じられる自伝だった。
著者はアスペルガー症候群ということで、特に幼児期、度を超えて神経質で、パニックを起こしやすく、他人の気持ちがあまり読めなかったようだ。とうぜん著者の両親は、その子育てに苦労したようである。
そしてその様子を著者は、親が○○をして問題に対処してくれたとか、「優しく」○○してくれた、「辛抱強く」○○してくれた、と修飾語を付けつつなにかにつけて本書の中で述べているのだ。

著者の両親が著者のことを、よくよく大切にして育ててきたことが強く伝わってきた。
そしてそのことを、著者自身がよく分かっているからこそ・よく感じられたからこそ、こうして自伝に記述できてもいるのだ。

愛情の発信。そして愛情の受容。こういうやりとり。いいものだなあ。

○本書で著者は、幼い頃からの出来事や感じたことを書いている。それらを読んでいて特に驚いたのが、両親や学校の先生、その他の人々に親切にされたことを事細かく一つ一つ覚えていることだ。
高い記憶力。すごい!
僕なんか幼稚園や小学校低学年のころの記憶はほとんど無いけどなあ。

○普通の人が気づかないような細部に著者は気づくことができるという。

○学校生活において、人と感受性があまりに違いすぎて周囲となじめず、孤独を感じていたことが語られている。

○解説の引用「読者は、アスペルガー症候群という難しい障害を抱えながらも、一歩一歩自立の道を歩んでいくタメット少年の成長ぶりに、大きく心を動かされるだろう。彼を支えた彼の家族の姿も、また感動的である。」
確かに。本書は極度に内向的で、コミュニケーションに障害をもつ少年・青年が、次第に世間に目を向け、仕事や他者とのコミュニケーションを重ね、自立していく物語といえる。

○著者の人付き合いに関心を持たない点など、僕もそうだったなあ、と感じたり。
小学生のころも中学生のころも、昼休みは図書館でずっと本を読んでいたなあ。
そしてそのことを寂しいともなんとも思っていなかった。