森林飽和 国土の変貌を考える

森林飽和 国土の変貌を考える
太田 猛彦 2012 nhk出版

森林飽和 国土の変貌を考える (NHKブックス)

内容、カバー折口より

緑の木々に覆われた山を歩きながら、私たちは、そこが五十年前にはげ山であった姿を想像できるだろうか? 山の地肌が消え、土砂崩れが減り、川から砂がなくなる―これら二十世紀におきた変化は、日本史上初のものだった。変化は副作用をもたらす。サルやクマの人里への出没、海岸の道路を崩壊させる“砂浜流失”、そして花粉症。各地で起きる問題の根源に山地の変化があることを見抜き、土砂の流れを分析して私たちの誤った思いこみを次々と覆す。自然環境と災害について発想の転換を迫る提言の書。

感想とメモ

○日本の環境破壊は、文明化によって進行しており悪化している一方のはず、というトーシロウが漠然となんとなく思いこんでいるだろう神話を見事に打ち砕いてくれる本。
曰く、、、、、、
日本にはかつて、いたるところにはげ山があった。現在は化石燃料もあるが、以前は肥料(落ち葉を)や建築材、日々の生活や製鉄、製塩、焼き物の燃料として森林資源に依存せざるを得なかったのである。直近の数十年を除けば、一部の奥山を除いた日本の山々は、はげ山なり里山(材木や堆肥を効率よく採るため成長の早く明かりを好むコナラ、クヌギなどを植栽した山)なり針葉樹林の山(建築材用)なりが広がり、人間に徹底的に利用さし尽くされてきたのだ。そして私達の想像以上に人家に近い森林は貴重でほとんど唯一の資源として徹底的に刈り取られ、はげ山や、その一歩手前の劣化した森林、草地が多かったのである。
その結果、山崩れ、浸食、洪水、そしてそれらが原因でおこる飛砂といった公害が発生し、人々は悩まされてきた。
しかし現在の日本は化石燃料や化学肥料の利用、安価な外国産木材の輸入による国内林業の低迷により、山々の緑は復活し、これまでにないほど緑豊かな国土になっている。飛砂、土砂崩れなどの公害も減少している、と。

何枚か明治末期や1950年頃の山を写した写真が掲載されており、それがもう、みごとにはげつるぴんぴんのはげ山。採石場かと思わせるような山が広がっており、強烈な印象をもった。浮世絵というと、ちょこちょことしか木が描かれていないものがあるが、それも表現技法ではなく、現実そうだったから、とのこと。

○他にも思いこみを覆してくれる部分があり、例えば、
・天然林をもてはやす風潮があるが、天然林も人工林(スギやヒノキ)も土壌崩壊を防ぐ効果は同じぐらい。流木の発生も同じくらい。
・森林は水を消費するため、水をため込んでいて渇水を防ぐ、ということはない。
・山の表面浸食を防ぐには、木があるかどうかよりも表面に草が生えているか、落ち葉が堆積しているか、が重要。

○海岸に松を植えたり、伐採禁止区域をもうけるなど、江戸幕府は森林保護政策をとってはいた。

○現在の日本の森林の状態をよく把握・理解し、質的にも豊かな森林へと管理していくことが必要。
(スカイコミュのコメント:筆者のいう豊かさって、結局、人間にとっての都合の良さを指している、と感じた。どっかで明言してたかな。なんかボカしていた記憶があるが。
森林が飽和しているとして、かつての里山が奥山化しているとして、人間に大きな悪影響を与えないのであればほっとけばいい、と私は考える。
管理するのもお金がかかるよね。費用対効果の問題で、道徳的にどうこう考えなくても、ほっといといて大きなマイナスが出るなど、管理せにゃあかんところは管理するようになるでしょ。経済に任せりゃいいんじゃないかな。)

○著者は「砂防」の専門家でもあり、その視点からの指摘が多かった。
土砂の流出を防ぐうんぬんという話や、逆にある程度は土砂を流出させないといけないという話、どれほど昔の人々が海岸からとばされてくる砂に苦労させられてきたかという話など。

○砂浜が消滅しているのも、森林の増加により浸食が減り、海へ砂の流入が減少していることが大きな原因。

○50年足らずではげ山の多かった国土がこれほど回復するとは、日本ってホント、緯度や地形の関係上、自然の回復力に恵まれた土地なんだな、って思った。
(確か上野の国立博物館で、日本の生物多様性は同じ島国のイギリスやニュージランドよりずっと高い、という展示物を見たな。)

○海岸林は、さきの東日本大震災津波の被害を減少させる働きをした。

○マスメディアで喧伝されている「里山」は、持続可能な社会のお手本であったかのように思われているが、実際はそうではない。はげ山や芝山も多かった。
(人間から収奪され荒れるとともに各種災害の原因となってきたことから)「豊かに生い茂った現代の森と比べると「里山は一種の荒地生態系」と言っても過言ではない」P68

現代日本の森林は、本書が論じてきたように飽和であるといえる。しかしそれで生じてきた問題点もある。
→河床の低下
→海岸線の後退
→野生動物の人里への出現
→花粉症

水田稲作の特徴。病害虫が少ない。連作が可能。単位面積あたりの収量が多い。