ロボット兵士の戦争

ロボット兵士の戦争
P・W・シンガー (著)  小林由香利(訳) 原著2009 NHK出版

内容(「BOOK」データベースより)

クリックひとつで戦闘準備完了。ハイテクは、戦争のスタイルを根本から変えた。今後、技術開発はどこへ向かい、人類にどんな影響をもたらすのか。軍、産業、政治、それぞれの思惑が複雑にからみ合う現状と、新しい戦争がつくり出す難問の数々を、安全保障問題の専門家が初めて明らかにする。

感想・メモ

戦場においてロボット兵器が急速に普及している現実を紹介し、その将来や、ロボット兵器の増加が及ぼす影響などについて論じた本。ロボット兵器が戦闘の在り方や産業構造、人間の精神などに与える影響は大きく、筆者は戦争における革命であるとまで述べている。
筆者が何度も強調していることであるが、ロボット兵器の普及は本当にすさまじいようだ。日を追うにつれて急速にロボット兵器は普及、高度化し、この流れはますます加速していくという。本書で述べれらている例を読み、確かに(そのようだ)、と痛感させられた。

ロボット技術は、通信技術とも相性が良さそうだ。実際、本書で紹介される戦闘ロボットの例(アメリカ本国から交代で、遠く離れた作戦空域を監視している無人戦闘機を操作するなど)は、この二つの技術の組み合わされたものがほとんどである。というより不可分?


ロボット兵器の技術向上、及び普及はあらゆる階層に及んでいるそうだ。
陸、海、空のあらゆる戦場で。そして、大がかりなシステムから兵士が使える小さなシステム(兵器を積んだリモコンで動く小さなタンクや個人で飛ばせる小さな監視用飛行機など)まで。

とにかく本書は分厚く、情報量が多い。著者は、『戦争請負会社』で民間会社の傭兵派遣が増加している実態と問題点を、
『子ども兵の戦争』で子供の兵士の実態と問題点を論じるなど、現在進行形で起きている戦争の在り様やその変化を研究し、それを一般市民にも分かりやすい形で紹介してきたことで有名だ。
先に挙げた2作は、戦争における倫理上の問題も提起する重要な著作だった。本書もそれに続き、刻々と「発展」している戦争の一面を暴く大著である。このように非常に重要な仕事を継続的に行う著者に改めて敬意を表したい。


さて、本書はとにかくロボット兵器に関することが多様な角度から述べられているが、簡単に興味を持った点を以下にちょこっとメモしたい。

メモ

○ロボット兵器が急速に普及している要因
先進国アメリカにおける兵士の死を批判する風潮。
ロボット兵器の、人の限界を超えた性能(長時間作戦行動できる能力など)

○2008年、米軍の保有する無人機は5331機で、有人機の二倍近くに達した。p61

○「SFは未来を予測し、左右するだけではない。新たな技術がもたらす結果を見極める準備をするのに、その技術がどんな道徳的、倫理的、社会的ジレンマをもたらすかを問いかける」p250

○兵士には、自分たちの命を救うロボットに対する愛着がみられる。

○テレビゲームになじんでいる若者は、無人機をすぐに使いこなす。

○(兵器の進歩によって生々しい死をともなった戦争体験が減少しているが、)ロボット兵器の普及によってますます、死をともなった戦争体験が減少する。

○ロボットを操作する者の能から直接、ロボットを操作・指示する研究と、逆にロボットの状況を五感を駆使して人間に伝える研究が進んでいる。
→『攻殻機動隊』よろしく、人間とロボットがまさに人馬一体となることで、高い戦闘力・作戦遂行力を発揮させようとしているのだろう。と思った。