累犯障害者 獄の中の不条理

累犯障害者 獄の中の不条理
山本譲司 2006 新潮社

内容(「BOOK」データベースより)

刑務所だけが、安住の地だった―何度も服役を繰り返す老年の下関駅放火犯。家族のほとんどが障害者だった、浅草通り魔殺人の犯人。悪びれもせず売春を繰り返す知的障害女性たち。仲間内で犯罪組織を作るろうあ者たちのコミュニティ。彼らはなぜ罪を重ねるのか?障害者による事件を取材して見えてきた、刑務所や裁判所、そして福祉が抱える問題点を鋭く追究するルポルタージュ

感想・メモ

○(2004年、受刑者の三割弱が知的障害者と認定されるレベル(測定不明も含め)(矯正統計年報より))p13
「知的障害のある受刑者の七割以上が刑務所への再入所者(矯正統計年報より)」p14

○(知的障害者の多くは、相手と自分の力関係を鋭敏に感じ取り、相手が怖い人だと察すると迎合的な受け答えに終始してしまう。→誤認逮捕が起きたことも)p64

○(聾唖者の中には抽象的な話が伝わらない者がいる。手話で会話し手話で考える彼らは、言語世界のありようが違うため、感受性や倫理観が、言葉で思考している人間とずれてくるのではないか。そう感じることがたびたびあった)p170

○(知的障害者を囲い込み、障害者年金を食い物にしている人々もいる)第二章

○(風俗の世界に引きずり込まれる知的障害者も多い)第三章

○(聾学校は、聾者に対し手話を使って知識を教えていくのではなく、発声練習をする口語教育にこだわっている。問題だ。)終章

○(触法障害者は出所後の受け皿がない。福祉関係も受け入れを拒否する。
給付金の額が「日常生活動体」という尺度でしか測られておらず、ナイフを持つこともできる軽度知的障害者に対する支援が十分でない)終章

○(知的障害者のほとんどが、社会では被害者の立場。加害者になってしまう者も、軽微犯が多く、きちっとした福祉の支援があれば防げたはず。)終章

感想・メモ

累犯障害者、つまり犯罪を重ねてしまう障害者がたくさんいることについて問題を提起している。ここでいう障害者とは、知的障害者のこと。

知的障害者は、自分の犯した罪の重さを理解できなかったり、あるいは社会に居場所がなく、刑務所の方が心地よかったりし、罪を繰り返す傾向があるという。マスメディアも、犯罪者が知的障害者だと知ると、報道を萎縮することが多いとのこと。そのせいもあり、実態が市民に伝わっていないという。
知的障害者に対する自供を目的とした強引な取り調べも指摘。

一般市民が知ることのないリアルな現実が示されており、勉強になる。ものの見方、社会の見方が広がったなあ、と実感させられる本。障害者というのは一定の確率で社会に存在するものなのだから、それを受け入れて、共生できる社会をつくっていくべきだろう。そのために障害者福祉や司法制度の改善が必要に思える。常識的な意見だが。

筆者は、この触法知的障害者をめぐる行き止まりのような現実を改善しようと、様々な行動をしているようで、素直に尊敬した。