中夏文明の誕生 持続する中国の源を探る

中夏文明の誕生 持続する中国の源を探る
NHK中国文明の謎」取材班 (著) 2012 講談社

内容、カバー折口より

広大な国土に13億という膨大な人口を擁する中国。この国を文明史のレベルで読み解こうとするとき注目されるのは、文明の誕生以来今日まで、ほぼ同じ地域で同じ文化が継続されたことである。紀元前2000年頃生まれた最古の夏王朝が作り上げた「儀礼」、殷の時代に生まれた「漢字」、秦の始皇帝が利用した「中華」という世界観。中国文明を世界に例を見ないものにしたこれら三つの柱の生成の謎にNHK取材班が総力を挙げて迫る。

感想

○「中国文明の謎」というタイトルのNHKスペシャルをもとにした本らしい。なんでNHK出版ではなくて、講談社が出版してるんだろ?

○論理が雑。根拠が曖昧な点が多いし、論理の飛躍も多い。
史料批判も甘い。自分たちにとって都合のいいふうに史料も考古学的史料も解釈している点がいくつかある。
全体的に信用性が低い。

○そうなってしまっている理由の一つとして、〈自分の調べている事柄〉=〈中国〉ってすごいんだぜ、っていう先入観があるせいだと考える。

○日本だったら縄文時代に相当するような時代から、きらびやかな装飾が施していたり、あるいは文字をほっている青銅器などが多数出土しているようだ。中国は。
やはりあの地域の文明の高さはすごい。

○基本的に、本書で述べられていることは、中国による発掘とその研究に依拠している。中国は言論の自由がなく、報道の自由も当然なくメディア統制がごく日常的なこととして行われている国(それが外国のメディアにまで及んでいるのだが)である。
申し訳ないが、そんな国の言うことはあまり信じられない。自分たちにとって都合の悪い事実や考えは国主導で隠蔽し、都合のいい言論だけを流布させるような国である。当然、考古学のように国や文明の沽券に関わるような学問領域にあって、その自由が認められているとは到底思えない。
発掘の成果も拡大解釈されていると考え、割り引いて受け取るべきだろう。
中国の考古学成果に基づいている本書もである。

多様な文化・言語の坩堝でありながら、なぜ中国は継続した文明の形を維持できたか?、という問いをたてている。本書が対象とする時代と違うとはいえ、「儒教」にふれ、本書の内容である「宮廷儀礼」と関連づけながら整理すべきでなかったか。

儒教が最も、歴代中国王朝の統一性を担保したものだと思うので。

メモ

(中華の「華」は、最古の王朝と伝えられる「夏」に通じている。p12)

(近年、中国の考古学が急激に進展。理由①、民族団結・国家統一の象徴として考古学に目が向けられ資金が投入された。②建設工事の急増により遺跡発見が増えた。p9)

(中国の様々な地域で独自の文明が発達。p65他)

(多様な文化・言語の坩堝でありながら、なぜ中国は継続した文明の形を維持できたか? p24


理由①:「夏」で身分を固定し集団秩序を維持する「宮廷儀礼」が発達し、以後も引き継がれた。p25

王朝の源流とされる「夏」は、「儀礼」を発展させることにより、外部と交流することや、神と人間とのコミュニケーションではなく、人間同士のコミュニケーションで権力を安定化させたことによって、王朝へと飛躍した。p91


理由②:「周」で呪術的な文字だった漢字が、実用目的で使われるようになり、広い領域を結びつけまとめるのにはたらいた。なお、漢字は表意文字なので異民族にも理解しやすい。

漢字のルーツである甲骨文字は、「殷」では生け贄を伴う神との対話に用いる呪術の文字だったが、「周」がとってかわってからは異なる言語をもつ人々の間で共通の文化を発展させる役割を果たした。p112

殷の青銅器は抽象的な文様、おどろおどろしい造形、大胆かつ繊細な装飾、多様な種類、奇妙な形のものも。儀礼用が主。p119
殷を破る前の周は土器が多い、種類は少ない、装飾性に乏しい。実用性を重視。p127 周の青銅器は簡素だが、多数の漢字が刻まれた。
その漢字は殷のように呪術的ではなく、異なる民族との「契約」という実用的な使われ方をしている。p164 また漢字は表意文字なので異民族にも理解されやすかったのだろう。p164


理由③:戦国時代を経て、自国の正当性を主張するため「秦」で「中華」という世界観が確立した。これは以後の王朝に引き継がれ国家安定のために利用された。

春秋戦国時代、各国は自国の正当性を主張するため伝えられる最も古い王朝である「夏」をもちだし、自国こそが夏の後継であるとした。それが我こそが世界の中心であるという中華思想につながった。p204