呪の思想 神と人との間

呪の思想 神と人との間
白川静梅原猛 2011 平凡社

内容、背表紙より

三千三百年前、漢字はなぜ生まれたのか。漢字は神への祈りのために生まれた。神へ歌を捧げ、舞を捧げた。その物語が「歌」「舞」という文字に秘められている。白川静をこよなく敬愛する梅原猛が原初の文字に封じこめられた古代人の心について聞き、とことん語り明かす、東洋の精神にせまる巨人対談。

感想

白川静梅原猛の対談集。対談として良い本とはいえない。対談は、二人の意見がときに同じ方向を向き、ときにぶつかり刺激しあい、お互いの知が総合的に合わさり高まり、また互いの知識が変容してこそおもしろいと思うのだが。ぜんぜんそうなっていない。
白川静氏の業績というか考えをなぞるような感じで進めていて、この対談集を読むくらいなら、体系的に整理しているはずの氏の著作を読んだ方がずっといいだろう。

漢字の成り立ちの話ほか、古代中国の話や孔子の話、詩経の話などが収められている。

個人的には、噂には聞いていた白川静氏の著作をちゃんと読むのは初めてで、彼の漢字に対するアプローチを知れて良かった。
「呪」とか「祭」という枠組みから漢字や古代中国文明、古代日本文明に迫っており、大変関心をひかれた。古代の人々は、神との交信を中心にして生きていた。その一部が「呪」や「祭」である。そういう世界観や意識が、象形文字である漢字に見ることができるという。
もっとも、これはよく言われることだが、「呪」とか「祭」の枠組みで漢字の成り立ちを捉える著者の考えは、興味深いけれど、その研究過程を分析しないと妥当性について何ともいえない。まあ、甲骨文字や金文を徹底的に脳みそに詰め込み、「字統」という辞書に体系的にまとめ上げた氏の研究結果を分析するのは、生半可な気持ちでは無理だろうが。

メモ

(漢字は象形文字なので、文字の中に形象化されたそこに含まれる意味を、現在の私たちがみることができる。三千年前の文字なら、三千年前の現実をみることができる)p28