これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学

これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学
マイケル・サンデル (著),鬼澤 忍 (翻訳) 原著2009年 早川書房

内容、カヴァー折口より

1人を殺せば5人が助かる状況があったとしたら、あなたはその1人を殺すべきか? 金持ちに高い税金を課し、貧しい人びとに再分配するのは公正なことだろうか? 前の世代が犯した過ちについて、私たちに償いの義務はあるのだろうか――。

つまるところこれらは、「正義」をめぐる哲学の問題なのだ。社会に生きるうえで私たちが直面する、正解のない、にもかかわらず決断をせまられる問題である。

哲学は、机上の空論では断じてない。金融危機、経済格差、テロ、戦後補償といった、現代世界を覆う無数の困難の奥には、つねにこうした哲学・倫理の問題が潜んでいる。この問題に向き合うことなしには、よい社会をつくり、そこで生きることはできない。

アリストテレス、ロック、カント、ベンサム、ミル、ロールズ、そしてノージックといった古今の哲学者たちは、これらにどう取り組んだのだろう。彼らの考えを吟味することで、見えてくるものがきっとあるはずだ。

ハーバード大学史上空前の履修者数を記録しつづける、超人気講義「Justice(正義)」をもとにした全米ベストセラー"Justice: What's the Right Thing to Do?"、待望の邦訳。

感想

政治は判断をしなければならない。集団を動かし、社会システムをつくっていくうえでは、何らかの判断をしていかなければならない。
その判断は、どのような価値観を前提にすべきなのか?
哲学者たちはどのような価値観を提唱してきたのか?
現在の政治判断はどのような価値観によっているのか?
最初の問いに戻る。私たちはどのような価値観をもって、政治的な決定をし、社会システムをつくっていくべきなのだろうか?

ニーチェが、(社会は価値観を競うゲームだ)みたいなことを言ってたのを思い出す。

本書はこれらの問いのヒントとなるべく、

功利主義――多数の幸福観を重視する立場
リバタリアニズム――個人の自由を最重要視する立場
コミュニタリアニズム――自由を尊重しつつも、共同体の共通善を重視しようとする立場

の三つの考え方を整理する。

「正義」とは何だろうか? 道徳とは何だろうか? 考え出すときりがない。また、この言葉には酸いも甘いも含まれていて、まじめに考えるのはこそばゆいものだ。
けれども、多くの人間が(民主主義社会であれば本当は全員が)、自分なりに正しいと思える価値観を見つけ、何を「正義」とみなすべきか考えるべきだろう。
それには他者の優れた考えを聞くこと。
他者と議論すること。
そして自分なりに何を大切にするか考えていくこと。

これらが大切だと思う。
本書はその一助になる。現実離れしためちゃくちゃな具体例が多く、ちょっとなあ、と思うところもあったけれど、基本的には現実に即して解説していて分かりやすかった。
三つの考えを紹介しつつ、最後はコミュタリアニズムよりの話になるのだが、それぞれめいめいが、考えを深めれば良かろう。

ただし、著者がどういう立ち位置にいるのかもっとはっきり書くべきだ。(いろんな考え方があるよ〜、紹介するよ〜)というスタンスをとりつつ、一つの考えを正しいと匂わすのはフェアじゃない。サンデルはコミュタリアニズムよりの考えをもっている。このことは最初に、明言するべきだ。