大空のサムライ かえらざる零戦隊

超おすすめ!!
大空のサムライ かえらざる零戦
坂井 三郎 1972 光人社

内容(「BOOK」データベースより)

紺碧の空に生き、紺碧の空に死することを、みずからの天命と思い定めて“不惜身命”のつばさの血戦場に出撃すること二百余回、敵機大小六十四機を撃墜してみごとにおのれ自身に勝ち抜いた日本のエース・坂井が書き綴った痛烈、豪快、勇壮なる零戦空戦記録の決定版。零戦と空戦に青春を賭けた強者の迫真の記録。

感想

第二次世界大戦零戦を駆り、多くの敵航空機を撃ち落としたエースパイロットの自伝。

○混沌とした日本、そして世界。戦闘機乗りは常に死を覚悟して空へと飛び立った。この自伝からにじみ出るのは生の実感、生の喜び。文字通りの意味で死と隣り合わせにあった。敵と命の奪い合い。仲間もこくこくと死んでゆき、自身も大けがを負っていく。そうして日本を、そして中国大地を、南洋を、生き抜いた。戦い抜いた。

はじめて飛行機に乗った興奮、ライバルたちとの競争、飽くなき飛行技術の追求、爆撃機を護衛する際の緊張、敵部隊にこっそり近づくときの高揚、仲間を失う悲しみ、命を奪ったことをまざまざと目にした衝撃、墜としても墜としてもやってくるアメリカの圧倒的な物量、大けがを負い意識がもうろうとするなか飛行機にしがみつきコントロールする生への執念。感情が素直に吐露され、これを読む僕も心を動かされる。

そう! だれもが、あの戦乱の空、緊迫の空、高度5000メートルの中を、エンジンの轟音に体を預け、敵機がいないか目をはりつめ、優れた機体、零戦の舵を握ることができるのだ。

本書には多くの感情、心の動きが詰め込まれている。それが読む人の心まで動かす。

○本書を読んでいて感じるのは筆者の目の良さである。必ず先に敵を見つけている。そして、迅速に忍びより、確実に先手をとって攻撃している。
また20ミリ機関銃の威力もなかなかのものみたいだ。7ミリ機関銃も積んでいるが、20ミリ機関銃がその威力を発揮する描写が何度もあった。特に攻撃機などは耐久力があったため、20ミリが効果的だったようだ。随所で20ミリの性能を強調しているところをみると、おそらくこれだけの大きな機関銃を積んでいる戦闘機はなかったのだろう。

○あと、ものを忘れたり、サイダーを気圧の低い飛行機の上で開けて爆発させたりと、結構ドジ。人間くさくておもしろい。

メモ

「むかしから、馬行においては人馬一体、という言葉がありますが、戦闘機操作技術においてもまさにそのとおりで、ラバウルの空中戦で敵戦闘機とわたり合うとき、プロペラ軸の先端が自分のひたいであり、両翼の先端が両手の中指の先に感じるほど、零戦そのものが私自身になりきってしまいました。」p3

「昔から、武人やスポーツにおいて、危機一髪とか、太刀先三寸にして身をかわすとか、いわゆる美技(ファインプレー)を名人芸のように考える人が多いが、きわどい技で敵をたおす場合には、きわどいということ自体が、すでにして自分もきわどい危険に身をさらしていることであって、ちょっとのミスが命とりになるものなのである。」p520