フラット化する世界 経済の大転換と人間の未来

フラット化する世界 経済の大転換と人間の未来
トーマス・フリードマン 伏見 威蕃訳 1910(初版2005) 日本経済新聞社

内容、折口より

 世界の仕組みは大きく変わった。新しい通信テクノロジーの出現によって、地球上のあらゆる場所にいる人間との共同作業が可能になり、インドや中国へのアウトソーシングが始まった。ブログやGoogleはインターネットに接続する個人にグローバルな競争力を与え、ウォルマートUPSは人々の想像力を超えた新ビジネスを展開している。いまや、個人の働き方、企業のビジネスモデル、さらには国家のシステムが猛烈な勢いで変わろうとしているのだ。この劇的な大変化こそ、「世界のフラット化」である。この激流のなかで、先進国と新興国の個人はどう生き残っていけばいいのか。米国で大ベストセラーを記録した名著の普及版。
 「世界のフラット化」によって仕事を奪われないために、先進国の人々は何をすべきなのか?子供たちの世代がインドや中国との競争に勝ち抜くには、どんな教育や社会システムを作る必要があるのか?誰もが簡単に知り合い、SNSやブログ、YouTubeで瞬時に有名人になる世の中で、私たちはどう生きていけばいいのか?本書後半では、フラット化という重大な試練を乗り越えるための具体的な方法を論じる。そして、フラット化がもつ真の可能性が明らかになる―知識やアイデアが瞬時にして共有化され、あらゆる場所でイノベーションが起こり、サプライチェーンが国家間の戦争を封じ込め、企業だけでなく個人がグローバルに競争するようになれば、世界経済は繁栄の新しい段階を迎えることになるだろう。

感想

僕が読んだのは第3改訂版。

著者は次のような主張をしている。
《インターネットによる通信技術の革新的進歩やグローバリズム化により、個人のできる範囲が大きく拡大した。国家の枠を越えて結びつき、競い、共同作業をする道具と能力が得られ、グローバルに活躍できるようになった。これからは、グローバルの中で競争し生き抜かなければならない。》

う〜ん…。かなり当たり前のことでは? アメリカの初版でも2000年に出版されており、これを30年前くらい前に主張していたならいざ知らず、10年ほど前に発表してインパクトがあり、意味のある主張なのか疑問だ。

もっとも、グローバル企業の経営者たちから話を豊富に聞き、これでもかこれでもかと実態を紹介にしている点は良いと思う。中でも中心になるのは、インドが、プログラミングや、保守、会計業務、コールセンターサービスなど、コンピューター関係の仕事をアメリカから受注し(奪っている)、話である。

フラットという表現も秀逸だと思う。著者自身、世界を理解する「枠組み」だというとおりで、端的かつ秀逸な枠組みだと思う。

著者の熱っぽい語り口にこちらまで恐ろしさと興奮を覚える。
そう、能力・意欲・才能がある人にはまさに国を超えて、個人の力だけでグローバルに活躍できる時代になりつつあるのだ。
しかし、能力がない人にとってこれほど恐ろしいこともないだろう。僕は熱っぽい語り口がそのまま恐怖に転じるように思う。
グローバル化によって市場は拡大する業界はたくさんあると主張する。しかし確かに、市場は広がるかもしれないが、総合的なプライヤー数は減るだろう。技術の進歩によって、一人の人間で多くの領域をカバーできるようになったからだ。グローバルと技術の進歩は、特殊な才能を持った一部の人をのぞいた、ごく普通の大多数の人を不必要にしてしまう。

個が力をもつということは、基本的にいいことだと僕は思うけれど、それだけ能力によって、差がますます拡大するということでもある。格差は社会にひずみを生み出す。格差は全体の幸福を減退させる。そのことが、本書の著者には見えているのだろうか?

読んでて、若干日本に対する偏見があるように感じた。現在進行形で他国を蹂躙している国の人に、第二次世界大戦のことをとやかく言われる筋合いはない。また、複雑な事情を簡易に切り取る爛漫なことよ。

最近日本でも話題の、サンデル氏のインタヴューを載せている。
フラット化は「われわれに立場や居場所をあたえてくれるような特定の場所やコミュニティにとっては驚異となるかもしれない。(中略)社会的な結びつき、信仰、民族としての誇りなど、市場とは無関係な価値観をもたらしてくれるゆえに大切にされている社会制度や慣わしや文化や伝統が、非効率そのものである場合もある。(中略)摩擦の原因のなかには、それらをフラット化しようとするグローバルな経済に逆行しても守らなければならないものがあるはずだ」中p11
メタ的な視点という意味ではこの部分が最も知的だと思う。もっと深く、多面的な考察が読みたい。
本書はこの先を全然描いていない。僕はこの先の議論を読みたいのだ。

フラット化しつつあるのは不可逆な流れだと思う。しかし、本書に批判を加えている論もあり、特に以下なんかは一見の価値がある。
http://ameblo.jp/seek-for-seekers/entry-10762718960.html

本書の内容がかなり細かくまとめたサイト↓
http://www.geocities.jp/yamamrhr/ProIKE0911-54.html

メモ

「平ら(フラット)という単純な概念を使ったのは、これまでになく平等な力を持った人々が、接続し、遊び、結びつき、協力し合うことができるようになった、といいたかったからだ。

フラット化する力は、これまでにないくらい遠くへ、速く、深く、そして安上がりに手を広げる力を、個人に与えている

多くの人々に、結びつき、競い、共同作業をする道具と能力をあたえることで、またとない均等化の好機をもたらしている。」上p8

アウトソーシングやオートメーション、テクノロジーの変化に対応できるような、創造的な仕事のできる人間を育てていかなければならない。)中p72

(学ぶ方法を学ぶことが重要)中p104

(国が経済的に成長するには、
経済発展のために団結して犠牲を払う社会の意欲と能力と、
発展に何が必要であるかを見抜く力のある指導者達の存在
が必要)中p252