西郷隆盛 西南戦争への道

西郷隆盛 西南戦争への道
猪飼 隆明 1992 岩波

内容、折口より

西郷隆盛はなぜ反乱をおこしたのか。またなぜ、復権されるのか。幕末動乱から征韓論争、西南戦争にいたる西郷の軌跡をたどり、さらに死後の評価までを射程に入れて、西郷の悲劇の意味を読み解いていく。ときの明治政府権力である「有司専制」との対抗関係を主軸に、新たな西郷像を提示し、日本近代国家の成立過程と特質を考える意欲作。

感想

○「西郷隆盛を通じて、日本の近代国家成立過程を見直」(p232)すという本。
 当時の日本は、少しでも舵取りを誤ると西洋列強に侵略されてしまうという、緊張の瀬戸際にあった。
 本書を読んでいくと、倒幕から明治新政府が安定していくまでの紆余曲折がうかがえるが、改めて思うのは、新しい国をつくったんだなあ、ということである。維新の傑物たちが、入り乱れて、試行錯誤しながら、新しいクニのかたちをつくっていく様子は壮観だ。この点により焦点を絞った本であったなら、なおのことそう思ったであろう。

○豊富に一次資料をあげていて、好感がもてる。ただし、現代語訳も付けて欲しかった。じっくり読む読者ばかりでなく、流し読みし、多読を優先する読者も多い。本書のような新書ならなおのこと。

○本書は日本の近代の政治体制を考える上で、「有司専制」をキーワードにあげている。今風にいうと、官僚独占といったところか。西郷隆盛は、この官僚独占を打破し、天皇新政を実現させるために、ナショナリズムを高揚できる征韓論を唱えた、と本書は主張している。

○(西郷隆盛の行動の動機は何か? 本書はそれに対し、下級士族だった西郷をとりたてた島津斉彬に対する忠誠心だとしている。それは後に、天皇への忠誠心に横滑りした。)p42

○(本来武士は、藩に所属し、藩に忠誠を誓っていたものだった。しかし、自分の藩と早く手を切れたものこそすぐれた近代的官僚になり得た。その典型が大久保利通。)p52