忘れられた日本人

超おすすめ!!
忘れられた日本人
宮本常一 岩波 源著1960

内容、表紙より

昭和14年以来、日本全国をくまなく歩き、各地の民間伝承を克明に調査した著者(1907‐81)が、文化を築き支えてきた伝承者=老人達がどのような環境に生きてきたかを、古老たち自身の語るライフヒストリーをまじえて生き生きと描く。辺境の地で黙々と生きる日本人の存在を歴史の舞台にうかびあがらせた宮本民俗学の代表作。

感想

「私の一番知りたいことは、今日の文化を築き上げてきた生産者のエネルギーというものが どうゆう人間関係や環境の中から生まれ出てきたかと言うことである。」(著者あとがきより)

ボクは高校で日本史を選択し、センター試験も受け、基本的な日本の歴史について学んできているはず。しかし、本書に載っている、古老たちの話――昔のこと、村のこと、自分の過去のこと――を読んで、ボクは歴史を知らなかったんだな、と痛感した。確かに、大きな事件については知っている。確かに権力者についても知っている。その浮き沈みも知っている。しかし、人口のほとんどを占める被支配者階級であるところの農民や、村民の生活を、ほとんど全く知らなかったんだ。

 著者は本書にて、古老たちの話を集める。つい50年前から100年ほど前、日本に生きる普通の人々がどのように生きたか、が浮かび上がってくる。どのように食を生産し、異性を愛し、村の調和を維持し、あるいは日本を自由に行き来し、一年を流れ、伝統の暖かさ(ときに冷たさ)の中に生きたのだろうか? 本書を読んでいるとその一端が見えてくる。統計では決して分からぬ人の個々の経験と世界がいきいきとそこにある。権力者や社会体制の変化も歴史だろう。そしてそれと同時に、この日本に根を張って生きた人間のほとんどを占める民衆の生活やコミュニティの在り様もまた、歴史なのだ。
下の引用で示唆を受けたが、つい50年ほど前の人々の生活は、現在の私たちが何を手に入れ、何を失ったのか。自分たちはどのような位置にいるのか、ということを考えさせる。

「なるほど」と思った書評の引用

網野善彦さんが『日本の歴史をよみなおす』で、

現在、進行しつつある変化は、江戸時代から明治・大正、それから私どもが若かった戦後のある時期くらいまでは、なんの不思議もなく普通の常識であったことが、ほとんど通用しなくなった、という点でかなり決定的な意味を持っています。
     網野善彦『日本の歴史をよみなおす』

と書いていますが、この『忘れられた日本人』という本を読むとこの言葉の意味がさらによくわかります。まさにこの本で描かれた老人たちの生活、生き方というのを今の僕らは完全に忘れている。いや、忘れているというより最初から知らなかった。
そして、網野さんが「江戸時代から明治・大正、それから私どもが若かった戦後のある時期くらいまでは、なんの不思議もなく普通の常識であったこと」というのとはまったく別の常識を当たり前だと思っています。

道を見失って歌をうたう
最近はそれがすごく危険だなと感じています。

せめて過去の世界はどうであったか、なぜそれが現在のようになったのか、その変化の根幹にあるのは何であり、変化によって自分たちが何を失ったのかくらいは把握していてよいと思うのです。
それは過去のほうがよかったとか、過去を復刻すべきとかいう話ではなく、自分たちの居場所を知っておくという意味でです。

僕らは見通しがきかない山道で道に迷っているようなものです。歌をうたって、向こう側の人の歌声を聴いて、自分の居場所を確かめなくてはならないし、相手がどの方向へ何をしに行っていたのかを知るべきかもしれません。
http://gitanez.seesaa.net/article/114415674.html