戦争請負会社

戦争請負会社
P.W. シンガー(原著), 山崎 淳(訳) 原著2003 日本放送出版協会

内容、カヴァー折口より

国家の軍事業務を代行する、それが軍事請負企業だ。冷戦終結後、各国が軍縮に向かい、軍務の外注化を進めると、請負業界は大きく成長した。業界の市場収入は、年間1000億ドルにも上る。非合法の取引、政治家との癒着などあまりにも不透明な軍事請負業の全貌を、米ブルッキングズ研究所の気鋭の研究者が初めて明らかにする。

感想

 題の通り、民営の軍事請負企業(Private Military Firms=PMF)についての研究本。本書ではPMFと表記されているが、日本ではメタルギア4の影響もあり、PMCの方が有名かもしれない。
 内容が非常に充実していて圧巻される。PMFの歴史から、個人傭兵との違い、世界に対する影響、分類、問題点、PMFに対する今後の政策まで、PMFについて多方面からアプローチしている。多数の事例も収集し、整理している。人間と人間の命の奪い合いに関わる話なので、やはり重たい。あくまで本書は、感情に訴えるような本ではなく、客観的で着実な分析が積み重ねられたもの。それでも、命の奪い合いに関わる軍事請負企業について約500ページにもわたって延々と冷静な分析が続くので、それはそれで複雑な気持ちになってしまう。正直200ページぐらいでお腹いっぱいになった。だがこれも目を背けてはならない現実なのだろう。
 何で気が重くなるかって、そりゃ一番はPMFは戦争があることによって生存できる体質をもっているからだ。武器商人と一緒。戦争によって、日々の食事を得ている人が増えているってのは気持ち悪いことだ。

メモ

 PMFは戦争に関するありとあらゆる業務を行う。戦闘行動、情報収集、情報分析、作戦計画の立案、訓練、評価、兵站の支援・維持。
その能力は戦況を変える要因になったという。実際、ユーゴスラビアアンゴラシエラレオネでの内戦で、戦況を変える決定的な要因になった。つまり、軍事請負企業を雇った組織はそのことによって一気に戦況を握ったのである。

 PMFが増加した理由。大規模な戦力の必要のない情報戦の重要化。量より質へ(国軍のメリットの低下)。冷戦の終結による軍人、武器の市場へ流入。冷戦の終結により大国の後ろ盾をなくした弱小政府が軍事力を欲した。武器の高性能化に伴う専門化。全分野に及ぶ民主化の流れが軍事にも波及。

 PMFの兵士は、ほとんど元国軍兵士。訓練や技能評価がわずかですむ。PMFは事務所や武器をため込まない。必要なときに借りる。

 PMFの登場により、、、。PMFを先に雇った方が有利(疑心暗鬼を生ず)。列強国と被保護国の関係を変えるかも。個人もパトロンとなり軍事的関係を傾けることができる。反国家的存在やマフィア、麻薬組織、ならず者国家も軍事的力を容易に得るかも。

 PMFの問題点。政府の民間企業への依存。国軍の弱体。武力行為における法的規制ができない。何かあった際、国防に関する重要な任務を放棄されるかも。統制できるか。PMFは一民会会社として守られるため情報を公開し説明する必要がないため、戦争行為を民間に請け負わせることにより、大衆の論議立法府の監視をのがれ、良くも悪くも行政府が好きなようにできてしまう。

(イラク戦争で、イラクに派兵した国はいくつかあるが、民営軍事請負業は2番目に大きな兵員だった。しかも、非アメリカ人兵士全体に匹敵する人数だった。)p8

(現行の国際法は主として個人傭兵を対象にしており、民間軍事請負業にはほとんど対応していない。)p10

(個人、企業、国家、国際組織(国連やNGOも)などが、公共機関のみならず私的な民間企業によっても提供される軍事業務にますます依存しつつある)p51

(民営軍事請負業は主要な業務によって三つに分けることができる。
①軍事役務提供企業
戦闘や指揮、情報収集
②軍事コンサルタント企業
助言や訓練、軍のマネジメント
③軍事支援企業
非殺傷的援助や補助、兵站維持)p188

PMFは利益を上げるため、紛争の存在そのものに依存する得意なタイプの会社なのだ」p342

「民営軍事活動は軍人という職業を利得動機に結びつける。それが大衆の尊敬を得ている価値観に反することは明白である。」p400

PMFはこれまで国家のみだった国際安全保障環境の新しい市場の力、プレイヤー。