日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率

日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率
浅川 芳裕 2010 講談社

内容(「BOOK」データベースより)

食糧危機と農業弱者論は農水省によるでっち上げ!年生産額8兆円はアメリカに次ぐ先進国第2位!生産高―ネギ1位、キャベツ5位、コメ10位!7%の超優良農家が全農産物の60%を産出。

感想

 常日頃、政府の発表を批判意識をもたず丸呑みで発表してクルクルと踊らされる馬鹿なマスコミによって、日本の食糧自給率の低さが盛んに喧伝されている。そしてそれを批判意識をもたず信じてしまう市民全体によって、日本の自給率を上げようという意識が広がっている。
 本書は、農水省が発表するデータは、日本の自給率が低くなるような指標をわざと選び、カロリーベースで計算していると指摘している。
 日本の食糧自給率をカロリーベースで計算すると、たった41パーセントしかない。カロリーベースで計算したり廃棄分をのぞいているのは、農水省が国民に危機感をあおり、予算を獲得するため、意図的に数字が低くなるようにしているからだという。
 一方、金額ベースで自給率を計算すると66パーセントにもなり、その農業生産額は世界第5位の規模にもなるという。
 今までこういう視点があまりなかったから、これ広め、問題を提起するのはスバラシイと思う。
 ただ、その中身をよく見ると、高く売れるもの(野菜や果実など高い付加価値があるもの)をよくつくっているにすぎない。だから、金額ベースの自給率は高く見えるに過ぎない。
 だから、農業生産額をもって安心だというのはアサハカ(本書もそこまでは言っていないけれど)。農水省の目標と仕事のマズサはよく考える必要があるけれど、米など、一定の基幹食糧の自給率は食糧安全保障上、必要だと思う。それに、これは価値観の問題だけど、国の形として、そうあるのが、「自然」だと思う。

 また本書は、日本の農業の強さを主張し、各資料を提出しているけれど、世界水準で高いGDPや人口を考えたら、特に日本の農業が強いとは思えない。確かに、強い部分はある。しかし、「強い部分がある」=「強い」ではない。
視野が狭いから、もっと視野を広げてほしい。かなり一面的すぎるので、反対の面も見せて、それを批判してみてほしい。

 なお著者も指摘しているが、日本の農業が付加価値の高いモノを作っているということは、今後ますます中産階級が増えていく世界状況を考えれば、外需獲得の上で好条件だ。

 潤沢な補助金は、擬似農家(金を稼ぐ手段として本気で農業に取り組んでいない人たち)を生き長らえさせ、高い競争力を持つプロの優良農家をを阻害する、という指摘にはなるほど、と思った。著者は農業専門誌の編集長だが、その視点がここに集約されている。

アマゾンにあるレビューに

日本が実は農業大国なのだ という主張が新鮮で、その点で価値がある本です。
食料安全保障は、自給率の問題ではなく、リスクマネージメントの問題であり、
不作や自然災害、病気の蔓延や国際紛争など、多様なリスクを管理する
という問題として扱うべきだ という主張も妥当でしょう。

でも、英国、ドイツ他が 日本よりたくさんの食料を輸入しているというデータを示して、
「世界最大の食料輸入国というのは嘘だ」と主張するのは いけません。
これらの国々が、輸入量に匹敵する食料を輸出していること、
差し引きすれば、日本がやはり世界最大の食料「純」輸入国であることなど、
著者が当然熟知している事実を、まるで関係ないかのように読者から隠しています。
このほかにも、アンフェアで意図的な誘導が目立ち、それが残念です。

亜鉛の一種であるカドミウム」という誤りがあり、最も重要な「自給率の計算式」も間違っています。

農政の課題をほぼ全て「農水官僚の保身と権益保護」に帰している点も、自ら論理を貶めてしまっています。

終わり近くに「日本農業成長八策」が示されていますが、6番目が無いのはなぜでしょう。
それは良いとしても、内容が「家庭菜園」や「海外で営農」など 大幅な的はずれ です。
比較的まともな「輸出に力を入れる」という項目で、イチゴ品種「とちおとめ」を世界商品にする
という例を示していますが、「とちおとめ」が、海外の特許侵害で被害を被っている現状を
はたして知らないのか、ブラックジョーとしか思えません。

見るに値する本でしょう。
でも、批判力を携えて読んでくださいね。

とあった。まったく同意。

メモ

(農水省は、自給率を上げるため、ほとんど外国産を使っている家畜飼料に、多大な税金を使って国産飼料の割合を増やそうとしている。しかし、そもそも大量に穀物を使う肉食は贅沢な食文化。食糧供給の逼迫を主張しながら、上げようとしているのは飽食の自給率。)p62

(小麦や大豆をつくると補助金が支給される。しかし、補助金が出ると、ただ作るだけで金が得られるため、品質の向上と面積あたりの収力向上に真剣に取り組まない農家が増加している。)p66

(日本では農業は、ビジネスではなく、暮らし方だと思われてきた。確かに天候に左右され、作業がきつく、価格も不安定で、人の生命維持に繋がる農産物を収穫するのだから、儲かる云々の話をするのははばかられるような空気がある。しかし、顧客起点の商売である点で他のビジネスと一緒。)p138