グラン・ヴァカンス 廃園の天使Ⅰ

グラン・ヴァカンス 廃園の天使Ⅰ
飛浩隆 2006 早川書房

内容、カヴァー後ろより

仮想リゾート“数値海岸”の一区画“夏の区界”。南欧の港町を模したそこでは、ゲストである人間の訪問が途絶えてから1000年、取り残されたAIたちが永遠に続く夏を過ごしていた。だが、それは突如として終焉のときを迎える。謎の存在“蜘蛛”の大群が、街のすべてを無化しはじめたのだ。わずかに生き残ったAIたちの、絶望にみちた一夜の攻防戦が幕を開ける―仮想と現実の闘争を描く『廃園の天使』シリーズ第1作。

感想

 作者があとがきみたいなところで、「清新であること、残酷であること、美しくあることだけは心がけた」と書いてあるとおり、とても美しくとても残酷なお話。文章がうまい。美しい言葉つながりによって、豊かで純真で透明なイメージが広がる。もっとも、著者がもう一つ心がけたという「残酷」さは、とめどない凄烈な肉体的な苦痛であり、それが文学的な美点になっているかと問われれば、はなはだ疑問だ。登場人物もステレオタイプな単純な連中ばかり。本当の苦しみ、葛藤がない。