「食糧危機」をあおってはいけない

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「食糧危機」をあおってはいけない
川島博之 2009 文藝春秋

内容

内容(「BOOK」データベースより)
食糧問題をシステム工学で分析した。「食糧は、本当は余っている!」BRICsの経済成長、人口爆発、生産量の限界、「買い負け」、バイオ燃料、食糧自給率…食糧危機の俗説を一網打尽。

感想

 昨今、大きく喧伝される「食糧危機」に対し、「システム工学」(出来事を構成している様々な要素を吟味して、どうしてそうなるのか、そしてどうしたら別の結果を導けるのかを研究する学問)p11の面からアプローチし、〈食糧危機は起きない〉と批判している。
 盲目的に受容していた「常識」を覆す様々な「事実」が紹介される。
○昔に比べ、穀物や畜産の生産性が非常に高くなっていること
○途上国は、日本や西欧のような高い生産性で農業をしておらず、途上国が近代的な農業をすれば農産物は非常に増えること
○途上国の経済発展につれ出生率は急減しており、国連の想定以上に人口は増えないこと
○途上国の経済が発展し、市民の生活が向上したとしても、欧米のようにたくさんの肉を食べるわけではないこと 文化によって違う
豊作貧乏を避けるため先進国には休耕地が多く、また世界中には潜在的農地に相当余裕があること
など。


 大変興味深い。食糧危機だけでなく、人と自然とのあり方を考える上でも重要な本だと思う。


 しかし、それら「事実」の根拠や出典が、はっきり書いて無く、そこら辺はもっとしっかりすべきだと思う。これは本書の重大な重大な欠点だ。


 話を変えるが、化学肥料(窒素肥料)には凄まじい性能があるらしい。フランスでは窒素肥料や各種技術の向上により、1900年頃と比べて、面積あたりの小麦の収量が7倍に増えたそうだ。人間ってすごいなあ。


 なお著者は、国内生産力を維持しなければという発想から抜け出し少量で利益が出る作物をつくることが、日本の農業の生きる道、と主張している。
それはそうなのかもしれないが、私は国防の問題から、基礎食料は一定の自給率は維持する必要があるとも考える。増産しろとはいはないが、現状米が採れすぎてい

るのなら、内需拡大は、国益の観点から国が当然推し進めなければならない事案ではないか。

メモ

(化学肥料を使い、効率的に穀物を生産しているのは、日本と北米、西ヨーロッパといったごく一部の先進農業地域だけ。つまり世界の大部分を占める残りの地域で

は、工夫次第で何倍にも増やせる余地がある。)p13


(欧米人は、経済が発展すれば、どの国の人々も自分たちと同じように肉ばっかり食べると考えている節がある。しかし文化には多様性があって、しかも食文化は最

も保守的な価値観に根ざすものなので、そう簡単に、全ての国の人々が欧米人のごとく大量の肉を食べるようになるわけではない。)p35


「現実には、日本人が思っているより世界には魚を食べる文化が少ない」p53


「日本で魚の消費量が減ってきているのは事実ですが、それを「魚離れ」と呼び、大きな問題であると捉えるよりは、むしろ「どんな食べ物でも手に入るようになっ

たことで、魚も一つの選択肢となり、消費量も一定のレベルに落ち着こうとしている」と考えるほうが自然です。」p57


(経済発展しても、農業生産額はなかなか上がらない。
 理由①農作物は、工業製品と違って品質を向上させて付加価値のある高価格の商品をつくるのが難しい。なぜなら比較しにくいから。
 理由②たくさんつくることもできない。一人が食べる量はそんなに変わらないから、つくりすぎると価格が暴落してしまうから。)p78


「世界人口の六割を占める地域で人口増加率が落ち、日本のような先進国では早々に人工が減りはじめる。それが二十一世紀の世界」p83


(アフリカには、貧しくて飢えている人が多いというイメージがあるが、生産余力はかなりある。政治や経済上の理由でそれが押さえつけられているのが現実。)p8


(2007年から2008年にかけておきた穀物価格の高騰は、たんなる金融現象)p154


(古代から100年前まで、面積あたりの収穫高はほとんど変わらなかった。100人のうち90人くらいが農業で働く必要があった。しかしここ100年で起きた「緑の革命(

多収穫量品種への改良)(化学肥料・農薬の普及)(灌漑面積の拡大)」によって、収穫高は激増し、アメリカにおいては100のうち2人しか農業に従事していない。それ

だけでアメリカのみならず、それとほぼ同量の食料を輸出している。)p98


(「緑の革命」によってフランスの小麦の単収はおよそ7倍に。)p96


(野生種は、光合成で得た材料のうちかなりの部分を茎や根に投入する。競争に負けないように。また環境の変化に対応するために。
一方、品種改良した種は、人間が管理するので、茎や根にあまりエネルギーを投入する必要がない。それを実を増やす方向に振り向けているのである。)p100


(窒素肥料の登場によって、穀物の収穫量は激増した。窒素肥料の投入量と穀物の単位面積あたりの収穫量は、見事な相関関係を描く。)p101


(先進国には、穀物のとれすぎにより、条件が不利なところから休耕地にされ、そしてそれは大きな面積になっている。)p109


(地球が温暖化しても、それに人間は対応して、作物を植え替える。また全体として雨が増えるので、食物生産の面でいえばプラス転じるだろう。)p142


(世界食糧危機を心配しているのは日本だけ。)p193


(フードマイレージという概念がある。しかし、陸上のトラック輸送に比べ、船での穀物輸送はCO2排出量が極めて少ない。一方近くのコンビニには一日に3,4回も小

型トラックでお弁当が運ばれる。私たちが便利だと思うサービスこそ実は相当のCO2を排出する可能性があるので、本当にCO2を減らしたいのなら、私たちのライフス

タイルに目を向けるべき。
 フードマイレージは擬似的なエコ意識を利用し国産の農作物を進めようしている。)p229


(広く全体を見て、分野の間の関連はどうなっているのか考えることが大切。)p199