マスコミは、もはや政治を語れない 徹底検証:「民主党政権」で勃興する「ネット論断」

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マスコミは、もはや政治を語れない 徹底検証:「民主党政権」で勃興する「ネット論断」
佐々木俊尚 2010 講談社

内容(「BOOK」データベースより)

総選挙分析、八ッ場ダム記者クラブ開放、亀井徳政令、そして小沢一郎の政治資金問題―。新政権報道で、浅はかな論考しか流せないマスコミに対し、ロジカルでリアルな議論を展開するネットメディア。今後、ジャーナリズムの役割を担うのは、新聞やテレビではなくブログやtwitterだ!まもなく世界は変わる。

雑感

 勃興するネット上の言説の質の高さと、その一方新聞をはじめとするマスメディアの言説の質の低さを主張している。
 本書は、実証的な本とは言いがたい。なぜなら例えば、ある特定の事件に対する言説をほとんど全て集めて分析したものではなく、つまみ食いのように言説を集めているだけだからである。これでは、自分の主張に都合の良い主張を集めているのでは?という疑いを晴らせないだろう。


 しかし僕は、筆者の主張には強く強く共感する。
そして強く強く思う。筆者の主張は正しいと。


 これは日々僕が、ネットサーフィンをしたり、新聞を読んだりする中での感想だ。
 はっきりいって、マスメディアの言説のほとんどは
「論理のないうすらばか情緒的、くだらない・不勉強・幼稚・表面的・非論理的・常識過ぎて何も言っていない」だ。
 その一方、ネットの言説は質が高いと思う。まあ、当たり前かもしれない。新聞はその問題の素人である記者が、専門家から聞きかじったことが当たり障りの無いように書かれている。一方、ネットで発言しているのは、専門家や本当に頭の良い人でその問題に何らかの関わりがある人たちばかりだ。マスメディアほどクレームに怯える必要はないので、考えていることを率直に書きやすい。あまり表に出てこない情報や知識を得ることも多い。それだけでなく、おもしろい「ものの考え方・ものの見方」を、きちんと論理的に説明している。自分の気づかなかった「価値感」に気づくことも多い。しかもこれらの言説は、ネット特有の双方向性によって、常に批判の目にさらされる。反対の立場から反論され、また論理を検証され、また価値観を暴かれ、人の目にさらされるほど、練り上げられていくのだ。
 また、ネットの情報は決してカオスに存在しているわけではない。「検索サービス」や「はてなブックマーク」、「RSSリーダー」を使えば、評価の高い言説を、短い時間で効率よく集めることができる。


 ネット上の言説の質の高さを、多くの人に知ってもらいたい。そしてまた、多くの人にその論壇に参加してもらいたい。
 市民が、本当のメディアリテラシーと、鋭いクリティカルシンキング(批判的思考)を身につけること。
 それがよりよい民主主義社会を成熟させるだろう。


 あと、マスメディアには、くだらない言説を垂れ流すのを本当にやめて欲しい。新聞やテレビで喧伝されているのは、本当につまらない常識や幼稚な感情論ばかりだ。しかも、なんの思考も苦悩もない。大衆に媚を売るだけのつまらないくだらない常識や幼稚な感情論ばかりでは、全く勉強にならないんだよなあ。まあ、マスメディアの構造上の問題だからどうしようもないかもしれないけれど。


 後半では、インターネットを使った政治的投票について思考を巡らしている。圧倒的手軽さ、コストの低さ、複数投票の簡単さから、各候補に、配分を決めて投票したり、各政策それ自体に投票することできるようになったとし、そのメリットについて論じている。インターネットを利用してどうよりよい民主主義を構築するか?、というのは社会システムの変革を目指す上で重要な問題だろう。

メモ

「マスコミはこぞってライブドアを「虚像」と批判し、「マネーゲームに奔走するヒルズ族」といったステレオタイプライブドア批判に終始した。しかしブログ界では公認会計士や弁護士、大学教授など、財務や法律などの専門家たちが、多面的かつ徹底的に分析を行った。そうして彼らの書くブログのエントリーは多くの人に読まれ、その鋭い分析力は新聞などの記事を上回っているーーそう感じた人が少なくなかったのである。」p5


「論考や分析は一次情報をもとにロジックを組み立てていくものであって、必ずしも取材は必要ない。もちろん追加取材でさらに突っ込んだ分析ができるようになるならそれに越したことはないが、さんざん取材した挙げ句にくだらない論考しか垂れ流せないマスコミ記者の記事よりも、いっさい取材していないブロガーの論考のほうがずっと良質というケースは、無数にある。」p10


「マスコミの情緒報道と、それと対照的なネットのロジカルな分析ーー。そのような対比が、政権交代後のさまざまな局面であらわとなっていった。たとえば八ッ場ダム問題がそうだ。」p114


(毎日新聞社は、90年代からつい最近に至るまで、環境問題の点から脱ダムを主張。しかし、八ッ場ダム建設中止問題が起こると、急に、地元住民がかわいそうだと大合唱。路線を変えるのならきちんと説明すべき。単なる地元よりのアジテーションだ。)p121


「「ネットの意見は便所の落書きで信用できない」と思っているマスコミ人はいまだに少なくないが、そういう段階はもうとうに終わった。いまや信用できないのはマスコミの側であって、ネットこそがリアルでロジカルな新たな言論勢力として台頭しつつある」p266