ニコニコ生放送に負けた新聞社たち

 お昼頃新聞を広げたら,ぶっぶっぶったまげた。
南日本新聞の政治面に,写真付きで次のような記事が大きく扱われていたからだ。

小沢氏,国会招致拒否
ネット番組で明言「司法手続き中」

 民主党小沢一郎元代表は3日、都内でインターネットサイト「ニコニコ動画」の公開生中継に出演し、野党が求める国会招致について「必要ない」と拒否する考えを明言、岡田克也民主党幹事長との会談に関しても否定的な見解を示した。招致実現に努力すると野党に約束した岡田氏に真っ向から反対する姿勢が波紋を呼ぶのは必至。国会終盤に向け野党の態度硬化を招く可能性もある。
 小沢氏は招致について「司法手続きに入っているので、三権分立の立場からすれば立法府で議論するのは基本的に妥当ではないし、必要でもない」と述べた。
 岡田氏との会談を拒む理由は「まずは党が(野党の招致要求への)対応を決めなくてはならない。岡田氏一人が決める話ではない」とし、「政治倫理審査会に出るべきだという議論を前提に話をするのは違うのではないか」と述べた。
 自身の去就に関し「何もやましいことはないので、今後も政治活動は続けていきたい」と強調。「民主党内にいっぱい支持してくれる人がいるから、党を出る必要はない。民主党政権を成功させることに全力を尽くす」と決意を表明した。
(中略)
 小沢氏が公の場で発言するのは検察審査会の強制起訴議決を受けた直後の10月7日以来で、約1時間半出演。(後略)


 ネットで調べたところ,各地方紙も同じ記事を流しているので,共同通信の配信記事のようだ。朝日新聞も確認したが,「ニコニコ動画」という固有名詞を,「インターネット番組」と表記し,具体的に名前をあげることを避けているぐらいが違いで,内容はだいたい同じ。


 ここで驚くべきは,記事の内容それ自体ではない。
 当然驚かされること。
 それは,政治と金をめぐる問題で,小沢一郎氏の証人喚問がなされるか否かが問題となるなか,一ヶ月近く沈黙を守っていた当小沢一郎本人が,それを明確に否定する場として,ニコニコ動画を選んだということだ。
 いわばマスメディア各社は,インターネット番組であるニコニコ生放送に極めて商品価値の高い情報をすっぱ抜かれたのである。そして小沢一郎氏は,重要な情報をあかすという恩を売る対象に,新聞社ではなく,ニコニコ生放送と,その視聴者を選んだのだ。


 隔世の感がある。新聞やテレビといった,圧倒的ネットワークと大きな既得権益を守り,暴力的なまでの力をもつマスメディアに対しても,ニコニコ生放送は,あるいはそれを支えるインターネットというシステムは,ある程度対抗できるだけの力を身につけつつあるということの証左だろう。


 インターネットでは多種多様な言論が繰り広げられている。もちろん,新聞社の第一次情報収集力にはかなわないけれど,素人が聞きかじったことが並べてある新聞にはない情報や考察も多い。


 そもそも、税金で運営されている国や地方自治体は,その情報を国民に直接開示するべきだ。インターネットの登場によってそれは可能になっている。
 行政だけでなく,さまざまな事件,あるいは現象の当事者は,インターネットを通して,直接情報を出して欲しい。それによって,より議論は深まるだろう。
 もちろんインターネットはバラ色ではない。自分にとって有益な情報をどうやって収集するかということは依然問題であるし,ネットリテラシーの欠如は誰かを傷つけてしまう。
 しかしそれを認識しつつなお,もっともっとネットで直接当事者が問題を公表し言及し,それをもとに,もっともっと多数の人が多種多様の言論を繰り広げる世界が待ち遠しい。


 昨日の小沢一郎氏の判断は,そしてそれに遅れを取らざるを得なかったことを正直に載せた今日の新聞記事は,新たな時代を示す,大きな一歩だろう。