不透明な時代を見抜く「統計思考力」

不透明な時代を見抜く「統計思考力」
神永正博 2009 ディスカヴァー・トゥエンティワン

内容、カヴァー折口より

自分の未来を考える上で、統計思考=データ分析ほど強力な方法論は他にないと思います。わたしは、どこにいるか、いつ助けてくれるか分からない神様よりも、データ分析の力を信じています。データ分析力は、あなたがサバイバルできる確率を大きく持ち上げるに違いありません。そして、みながこれに気づくことが、日本が暗いトンネルを抜けるための唯一の道なのだと思います。

メモ

「 だれかが書いたデータの解釈を読まされている状態から、自分でデータを読むようになれば、見える世界が変わってきます。」p3


「 みなが自力で事実を知ろうとする、そんな世界になれば、世の中はきっとよい方向に変わるでしょう。」p6


「 データを先に見てから本文を読むと、記事に書かれていない言葉で見えてくる事があります。」p21


「自分の専門をしっかり持ったうえで、他の分野の問題を考え直してみると、その分野の専門家でも気づかなかった意外なことが見つかる可能性があります。(ry)専門家よりもあなたのほうが詳しいことだってあるかもしれません。ビジネスマンは、自分が属している業界については、他の人よりもずっと詳しいでしょうし、社会人経験がある分、企業の内部事情に通じているでしょう。また、貧困を経験した人は、ずっと裕福だった経済アナリストよりも、世の中がよく見えているかもしれません。」p112


「現在は、さまざまな統計情報がオープンになっています。それらのデータを活用して、エビデンス・ベーストな(証拠に基づいた)議論をすること、これこそが民主主義ではないでしょうか。」p247


「自力で考えることの最大の敵は、自分にはわかっているという過信です。いちばんむずかしいのは、正気を保つことなのです。正気を保つために、データ分析ほど強力な薬はほかにないでしょう。」p250


雑感

 ○統計データをみることの重要性と、その注意点を分かりやすく書いている。
 なかなかお勧め。特に、新聞などを見るとき、(記事よりも先にまず、データをみてみなさい)(そしてデータから分かることを自分なりに考えてみなさい)という指摘は面白いと思った。
 また、(問題となっている分野の専門家でなくても、臆することなく自分なりにデータを分析してみるべきだ。なぜなら、それぞれの人間は専門家の知らない世界を知っており、専門家がみつけられなかった意外な事実を発見するかもしれないから)という指摘にも強く共感する。それぞれの人間が背景に持っている価値観や世界観で、現象を切り取って解釈し、自分なりに考えてみようという態度が大事だろう。
 統計を扱うのは難しい。様々な要因を丁寧に考慮していって、やっとものが言える。それぞれの市民がある程度勉強しなければとうてい無理だ。しかし著者も言うように、民主主義における市民の必須の能力だと思う。


 ○本書で扱われていた日本社会の諸問題(小泉政権下で格差は広がったのか否か、や、若者の読書離れしているか否か等)のデータ分析では、高齢化が大きく影響していた。今後日本社会の諸問題をデータ分析し、現代の特徴を掴む際には、まず人口全体でじいちゃんばあちゃんの割合が急増していることを考慮しなければならないだろうなと、強く感じた。そこを割り引いとかないと、例えば若者や就労者の特徴を正確に理解できない。なぜなら、データの変化は、「個人や社会」の変化ではなく、単に高齢者の割合が増えたのが原因である可能性があるからだ。


 ○稀にしか起こらないこと(飛行機事故など)は、ばらばらに分布するのではなく、近い場所に連続して起こることが多いという。ポアソン分布というそう。
つまり、事故が連続して起こっても、それが何かの因果のせいではなく、偶然の可能性もあるということだ。う〜〜ん、難しい。


 なお、著者の関心のあることが雑多に書かれていて、示唆には富むが、統計からモノを考える全体的な力を養う教科書としては使えない。