ダムと日本

ダムと日本
天野礼子 2001 岩波

内容、カヴァー折口より

「治水」「利水」の名の下に、日本列島中の川を縊って建設されてきた二七〇〇のダム。今やまったく不要になったにもかかわらず、建設計画はまだ五〇〇以上もある。政・官・財の利権がらみで一向に見直されない公共事業に、いま市民たちがNO!の声をあげ始めた。長良川吉野川など日本各地の河川や、欧米の潮流を伝える。

感想

岩波新書は相当信頼してたけど、読んでて、
「「なんだこりゃ!?」」
ってずっこけそうになった。


 本書には、著者がこれまで行ってきたダム建設反対運動について詳しく書いている。
「「しかし」」!!
 なぜ、ダムを造る必要がないのか、あるいはダムがどのような悪影響を与えているかということは、ほんのちょろちょろっと書いているだけなのだ。
 そりゃねえ〜、《ダムは必要ないどころかむしろ悪》っていう考えは、長年、ダム建設反対運動をやってきた著者にとってはめちゃくちゃ自明のことかも知れないが、多くの読者にとっては、そうじゃないよ。
 その一番大事な説明があまりに簡素で、しかも具体的根拠も何も示していないから、著者の考えや活動を評価できないんだよなあ。
 自分が国(旧建設省)を動かしたんだという自慢話なのかも知れないが、それならタイトルを自慢話だと分かるようにすべき。かつ、自慢話は岩波新書のラインナップには合わないんじゃないかな?


 著者によると、高度成長期に薪炭の需要から広葉樹林が伐採されまくり山の保水力が急激に落ちたことから、各地で水害がおき、ダム建設が進められたという。しかし現在、山には針葉樹林が植えられ、山の保水力がある程度回復したので、ダムはもう治水目的には必要ないという。
 また、ダムは生態系を寸断、破壊する上、ダムにたまったヘドロを流すと、流域に害を与えるなど、ダム自体の問題を指摘する。ダムを造って自然の力をねじ伏せようとするのではなく、江戸時代以前のように、河は氾濫することを前提とし、上手につきあっていくべきだという。欧米ではそういう流れだというのだ。
 また、巨額のダム建設工事費に群がる、建設族議員、建設省、建設会社の、政官財の癒着を糾弾し、日本の河を食いものにしてきたと指摘する。


 今後、公共工事を進める上では、費用対効果をきちんと考えて、進めるべきだ、という指摘も強く共感する。


 僕自身、著者の意見に賛成だ。ダムの建設及び、その維持は、日本の豊かさを貶めると考えている。ただ最初に書いたように、本書はもっと根拠を上げ、丁寧に説明すべき。突っ走りすぎだ。


 後、(著者のような市民運動家が粘り強く活動して、国や世界の潮流が変わっていくんだな)、と感じた。