ネット評判社会

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ネット評判社会
山岸俊男 吉開範章 2009 NTT出版

内容、アマゾンより

この本は、これからの社会で暮らす私たちの生き方についての本であると同時に、社会秩序の作り方についての本です。これからの日本社会をどのように作っていくかと同時に、これから私たちが作っていく社会の中で、私たちはどのように生きていくのだろうかといったことを考えるきっかけになれば、という思いで書かれています。


この本のもとになったのは、第3章で紹介しているネットオークション実験です。この実験を始めたのは、知らない人たちの間で取引を行うネットオークションには、これからの社会が凝縮したかたちで詰まっていると考えたからです。これまでの社会では、閉じた関係性の中で「評判」が社会秩序を維持するのに大きな役割を果たしてきました。しかし、ネット社会のような開かれた社会では、どうでしょうか? どのような評判システムが有効で、今後の課題は何なのでしょうか? 実験の結果、多くのことがわかってきました。


本書では、「安心社会」から「信頼社会」への移行を提唱してきた著者が、これらの実験結果、あるいは最近の急速な技術(情報通信、脳科学認知科学)の進歩を背景に、「新しい安心社会」とも呼びうる将来の社会の姿を描き出します。はたして、この「新しい安心社会」は、人類にとって祝福となるのでしょうか? それとも呪いとなるのでしょうか?

雑感

 (ネットが普及するなどし、これからの社会は、つきあう相手の数がどんどん巨大になっていく。そのような社会では、社会の秩序維持にお互いの評価や評判がこれまで以上に重要な役割を果たす)と、主張し論じている。


 多くのネットサービスでは、ランキングや評価システム(拍手機能も)、ソーシャルブックマークサービスなどが実装されている。これらは、利用者の利便性を大きく高める。なぜなら、膨大な膨大な情報があふれるネット社会では、「どれが見るべき情報なのか?」を、見極めることが難しいからである。上記の評価システムなどは、これらを大きく助けてくれる。
 グーグルなど検索システムも、リンク数をランキングの基準に据えているので、評価を基準にしているといえるだろう。
 本書は、各種ネットサービスがはじめた評価システムの有用性を、早い段階で実証的に証明したものとして価値づけられると思う。
 詳細は↓にて。

メモ

「この本は、これからの社会で暮らす私たちの生き方についての本であると同時に、社会秩序の作り方についての本です。」p鄴


(人類はほとんどの歴史で、小さな集団の中で暮らしてきた。しかし、巨大で複雑な社会になっても、長い時間をかけて進化した人間の心のメカニズムは、小さな集団での暮らしに合ったかたちのまま変化無し。なぜなら社会変化のスピードは、心の進化を生み出すのには早すぎたから。だから、人は小さな集団での暮らしにあったかたちで進化した心のしくみをつかっている。重要なのは互恵性。特に、良い評判の持ち主には親切に対応する、悪い評判の持ち主には不親切に対応するという間接互恵性は、大きな社会をつくることに成功させてきた。)p鄽


「これまでの日本社会が集団内部で安心と相互協力を追求する集団主義的な「安心社会」であったこと、しかし現在では、「安心社会」から「信頼社会」への転換、すなわち集団内部での安心追求にかわる信頼の原理ーー関係を外部に対して閉ざすことで集団内部の社会的不確実性を縮小するのではなく、ある程度の社会的不確実性の存在を前提とし、機会を生かすための適切なリスクを負うなかで、他者との間に信頼関係を形成していくーーにもとづく社会の形成が求められている」p40


(適切な評価が行われるには、評価の評価も必要)(メタ評価)


「閉ざされた仲間内での取引の場合は不正を働いた参加者を「追い出す」ことが有効であり、そのためにはネガティブ評判が大きな効果をもっている。一方、ネットオークションのような開かれた市場(再参入可)では、不正を働いた参加者を追い出してもあまり効果はなく、潜在的な取引相手を「呼び込む」ことが重要となる。その意味で、ポジティブな評判は参加者独自のブランドとなり財産とみなされるため、開かれた市場における「呼び込み」のメカニズムとして重要な役割を果たすようになるだろう。」p155

ネット上から、よくまとめてあるものを引用

http://blog.goo.ne.jp/jchz/e/c45bd20fa0bdf12f56ef5bf4f717c7d2より


 まず前提である。著者らは「安心」と「信頼」を分けて考える。相手の人間性を見極めた上で、その人に投資したり、お金を貸したりするのは「信頼」関係である。しかし、「信頼」がなくても、私たちは人にお金を貸すことができる。それは、嘘をつけば確実な報復を受ける、いわば「針千本マシン」を相手が装着している場合だ。この状態を「安心」関係と呼ぶ。伝統的なな共同体においては、相互監視(評判の共有)と、裏切り者の集団からの排除が、強力な針千本マシンとして機能してきた。このような集団主義的な秩序に基づく「安心」社会は、個人主義的な「信頼」社会(司法や警察組織の整備、社会的知性の涵養)に比べて、コストがかからないという点ですぐれている。しかし、集団の外部に対して新たな関係を開拓することは困難である。


 では、集団主義的な不正の解決方法は、ネットの上でも有効か否か。(ry)売り手が誰であるか分かる顕名市場や、売り手の評判値を知ることのできる評判市場では、商品の品質は比較的高く保たれた。当たり前の結果のようだけど、「同じ人間の行動でも、どのような社会制度に置かれるかによって大幅に変わってくる」という指摘は、けっこう含蓄するところが深いと思う。


(ry)国際調査によると、日本人の信頼水準は、アジアで最低であり、紛争の絶えないアフリカや東欧の国々並みに低いのだそうだ。いやー笑った。そうなんだよな、日本って「信頼」社会でなくて、「安心」社会なんだよな。しかし、「安心社会では信頼が生まれにくい」(裏切られる心配がない→社会的知性が育たない)という著者の指摘は重要である。政府と諸官庁は「安心・安全」の回復を一生懸命めざしているようだが、本当に志すべきは、「信頼」社会なのではなかろうか。