人間性はどこから来たか サル学からのアプローチ

人間性はどこから来たか サル学からのアプローチ
西田利貞 2007 京都大学

内容、背表紙より

たとえば「人はなぜ太るのか?」。それは、ヒトが、元来は食物を多量に食べることができない環境に適応した動物だったからである??私たちが人間独自の性質だと信じている事柄の多くは、ヒトが「サル」から引き継いでいる。家族、政治、戦争、言語等々、人間性の起源をサル学から解き明かした初の好著。

雑感

上記にメモしたとおりの本。人間の体も心も、進化の産物にすぎず、系統的に近い動物(類人猿)と多くの特徴が共通している、とうのは、もっと社会に広まってもいいと思う。

メモ

「そもそも食物に「うまい」とか「まずい」といった「味」なぞというものは存在せず、脳がそう感じているだけである。栄養のある物をおいしいと感じるような感覚受容器をもった個体は、効率よく栄養を取れるので、そうでない個体よりも多くの子孫を残したであろう。栄養価がより高い食物を、より甘い、よりうまいと感じる個体がこうして自然選択される。」p4


「男女には、形質や体力だけでなく、行動や心理のさまざまな側面に一貫した違いが見られる。(中略)狩猟採取時代の適応や、はるかにさかのぼって性という範疇が進化した時代からヒトが受け継いでいる遺産である。」p14


「ヒトの行動は長い進化の産物であり、それこそ生命の起源に近い時代からもち続けている遺産もあれば、爬虫類時代の遺産もあり、類人猿時代の遺産もある。そして、最終的に獲得したのは狩猟採集民時代の適応であり、農耕革命以降の一万年に新たな形質を得たという証拠はない。」p6


「労働の性的分業は、カルチャー・ユニヴァーサル、つまり人間社会に普遍的な慣習の一つである。それは、生業の範疇がいずれかの性に割り当てられていることをさす。」p119


「仕事を性によってどのように割り当てるかは、でたらめではなく、一定のパターンがある。(中略)男の仕事は、高い移動性、瞬発力や筋力を要するだけでなく、部族の縄張に関する詳しい知識を要するような作業が多い。一方、女の仕事は食物採集を除いて、いずれも炉と赤ん坊の近くで実行できる。子育てとの両立可能性が最も重要な要素である。」p122


「「攻撃性」とは、個体あるいは集団が、他の同種の個体あるいは集団に対して、資源(食物や異性はもちろん、空間も含む)をめぐって優位に立とうとする傾向を意味する。それは、生物の自発性の表れであり、良いも悪いもなく、生物の基本的属性である。」p140


チンパンジーは、メンバーと非メンバーの峻別についてはかなりヒトに近い。チンパンジーは、他集団のメンバーに対し恐怖や嫌悪のみならず抹殺したいという感情をもっているようだ。それは、他集団の成員が近くにいると知ったとき、かれらが毛を逆立て、恐怖の表情を示し、仲間と抱きあい、下痢便をすること、あるいは見知らぬ雌に腕を触られた雄が、触られた部分を木の葉で拭き取ったというグドールの記した事例からも明らかである。」p157


「人間は、見知らぬ物に対する許容性が他の霊長類より大きい。」p158


「私がアフリカでチンパンジーを研究し始めたとき最も驚いたことの一つは、現地のアフリカ人にいろいろな作業について「なぜ、そうするのか」と尋ねたときに返ってくる返事は、いつも「祖父がやっていたから」であった。日本でも明治維新までは、そのような返事がかえってきたであろう。文化とは早く変化するものというのは誤解である。」p293