筆談ホステス

筆談ホステス
斉藤里恵 2009 光文社

内容、カヴァー折口より

青森から夜の銀座に来て、もう2年が経とうとしています。
最初は、私に銀座のホステスが勤まるか不安でした。
私を受け入れてくださったクラブも、入店当時は半信半疑でした。
「耳の聴こえないコに、ホステスが勤まるのか」
当然、誰もが抱く疑念です。
今でも、初めてのお客様からは、驚きや好奇の目で見られることもたびたびあります。
 そんな皆さんの心配を撥ね返して、今でも銀座のホステスとして働き続けています。
それは、私には接客の武器である筆談があるからです。
「筆談で会話なんて、成り立つの?」
今まで、何度同じ質問を投げかけられたでしょうか。
その答えは、
「YES!」
現実に私は、自分自身の筆談術を磨くことで、夜の銀座を生き抜いてきました。

雑感

ホステスは、究極の接客業だと思う。なぜなら、純粋にコミュニケーションだけを売っているからだ。
耳が聞こえず、また満足に発音することもできない筆者であるが、努力の末、銀座の人気ホステスになったという。
本書にはその過程が、ざっくりと書かれている。本書を読んでいると、筆者の芯の強さを感じる。
筆者は、次のように記す。


「 「あのコのことをもっと知りたい」
 「一緒にいて、楽しい」
 「もっと会っていたい」
 お客様からそんなふうに思ってもらえるように、耳が聴こえない私は日夜、筆談のテクニックを磨いているのです。」p170


この文章に、ホステスという仕事の凄さと恐ろしさがつまっているように感じた。


また、本書には、筆者の文章だけでなく、彼女の両親や、友人、お世話になった人々から話を聞いた文章もある。
両親の部分からは、筆者と両親との、根深いすれ違いが顕在化している。
両親は、ホステスとして働く筆者に、まだまだ納得していないようだ。
筆者も、両親に不審を抱いている。
世間体を考えると修正しそうな部分だが、修正せずにそのまま載せているのだろう。


本書は、一見すると聴覚障害を持った売れっ子ホステスの単純な成功譚にみえる。
しかし、両親との根深いすれ違いが、彼ら自身の言葉からみえることによって、本書には不思議な深みがあるのである。


なお、本書は、芸能プロダクション主導でつくられたらしく、内容の真偽に強い疑念が提出されていることを付け加えておきたい。