正しいことを言おうとした青年

「ものを言うなら正しいことを言いたい。」
「ものを書くなら完全なことを書きたい。」
そう思って、博識でおしゃべりで真面目だった青年は、何も言わなくなりました。何も書かなくなりました。
なぜなら彼は、何か言おうと思ってもそれが正しいかどうか確信がもてなくなったからです。
なぜなら彼は、正しいことを言うのに必要なあまりの苦労に気づき茫然としたからです。
彼は、果てない懐疑で頭がぐるぐるになったのでした。


いつしか僕は、喧騒の路地裏で彼をみるようになります。


「路地裏の老人は白痴である」と、人はやさしく僕に言いました。


けれでも、やっぱり彼の頭はぐるぐるなのです。
〈感覚〉と〈好奇〉と〈他人〉と、それから〈夜空の星の運行〉とで
ぐるぐるのぐるぐるなのです。


《20080302の記事》