戦前の少年犯罪

超おすすめ!
戦前の少年犯罪
管賀江留郎 筑地書館 2007


【表紙より】
昭和2年、小学校で9歳の女の子が同級生殺害
昭和14年、14歳が幼女2人を殺してから死体レイプ
昭和17年、18歳が9人連続殺人
親殺し、養父母殺しも続発!


現代より遙かに凶悪で不可解な心の闇を抱える、恐るべき子どもたちの犯罪目録!


なぜ、あの時代に教育勅語と修身が必要だったのか?
発掘された膨大な実証データによって
戦前の道徳崩壊の凄まじさがいま明らかにされる!
学者もジャーナリストも政治家も、真実を知らずに
妄想の教育論、でたらめな日本論を語っていた!


【本書からskycommuの琴線に触れたところを引用】
「江戸時代の育児書には子どもは自然のままにまかせて、いたずらしても可愛いと思うのがよろしいと書かれていたり、小林一茶がその本のとおりに幼い娘が茶碗を割り障子を破って暴れ回っても喜んで眺めていたりと、ルイス・フロイスオールコックなんて人々が賞賛するくらいに自由に育てるのが日本の伝統というもので、子どもを厳しく躾けるなんてのは欧米から入ってきた新しい考え方です。」p4
ルイス・フロイスの本を読んだことがあるけど確かにそう書いてあった。


「戦前はピストルを所持することが赦されていたので、少年のピストル射殺事件もちょくちょくありました」p21


「戦後のアメリカ占領軍によって少年法がもたらされたなどというのは、民主主義が占領軍によってもたらされたというのと同じく、日本の歴史を歪めるあまりにも無知な考えかです。実際の運用面では戦前は現在よりも少年に甘かったとさえ云えます。」p88


「実際に起きた事件のごく一部を集めた本書を眺めただけで、戦前は数も質も遙かにひどい少年犯罪があふれていたことがおわかりいただけたのではないかと思います。
それも、貧困ゆえの犯罪などはほとんどなく、むしろ金持ちの子どもが異様な動機から快楽殺人を犯したり、ささいなことでキレて頭が真っ白になってめった突きにするような事件が多かったり、親殺しや兄弟殺し、おじいさんおばあさん殺しなんてのも次々起こっていたことが理解していただけたのではないでしょうか。
あの時代にどうしてわざわざ、親を大切に、兄弟仲よくなんてことを毎日学校で教えなければならなかったのか。考えてみれば簡単なことで、世の中がそうなっていなかったからなのです。
(中略)
虚構と現実を混同してしまっている人たちが、新聞やテレビニュースを通じて過去についてまったくの妄想を語り、それを信じた人たちがまた妄想を増幅するというヴァーチャルな円環ができあがって、無意味にぐるぐると回転しています。
(中略)ジャナーリストも学者も官僚なども物事を調べるという基本的能力が欠けていて、妄想を垂れ流し続けています。物事を調べるという一番の基礎的学力がない人々が、ジャーナリストや学者や官僚などの職についてしまっているということです。現代の専門家の学力低下は深刻です。
そのうえで、根拠のない妄想に基づいて、国の政策決定などもなされるというなんともお粗末なことになっております。
(中略)
昔はよかったと思いこんでいる方だけではなく、戦前はひどい時代だっただろうと漠然と考えているような方でも、ここまでの事件データを集めてきちんと検証した人はいないのではないでしょうか。検証していないのなら、それは根拠なく誤った情報をやすやすと信じている人とまったく同じことです。」p290


【雑感】
本書の主張は明快である。戦前は現在よりはるかに、異常な少年犯罪や幼女レイプが多発し、親殺し老人殺しも頻繁にあり、いじめはもっと残酷だった、ニートもたくさんいた、というものだ。戦前のエリートだった旧制高校生など、親からも警察からも地域住民からも甘やかされすぎて、現在の若者と比較にならないほど、傍若無人な行動をしていたという。旧制高校生の騒ぎは現代から見ると単なる犯罪でしかない。昔はこれで逮捕者がでなかったというのだから驚きだ。


それら主張の根拠として、新聞から多数の犯罪報道を紹介している。筆者の主張は、俗に言う「識者」の流布する言説とは真逆だ。しかし、現在の異常犯罪に全く劣らず残酷な多数の戦前の少年犯罪たちは、圧倒的な迫力を持って読者に迫ってくる。「戦前は犯罪も少なくいい時代だった」とかいう何とも無責任でいい加減で手前勝手な言説に強烈な疑いを持たざるを得ないようになるだろう。


猟奇的な殺人は(子供によるものにかかわらず)現代になって急に頻発していたわけではなく、ずっと昔からあったのだ。しかも、事件記録を見ていると現代の方がずっと命を大事にしているのではないかと思えてくる。


猟奇的な犯罪が増えたとかいう風潮は、マスコミが全国的に網を張り、大衆が喜びそうなその手の犯罪を大々的に報道するようになったからだろう。戦前の犯罪報道はそうとう猟奇的であっても、全国紙に載ったりしなかったとのことである。今とはいろいろ事情が違うのだろう。


「識者」が流布している嘘を明らかにしているという点で本書はじつにすばらしい本だと思う。上でも引用しているけど、あとがきに書かれている著者の言は、この問題だけでなく多くの問題に広く見られる重大かつ重要な指摘だ。


世間一般に流布している言説のなかには、いい加減で間違っているものがいかにたくさんあるか。そういうことはきちんと考えていく必要がある。なぜなら、「世間一般に流布している間違った言説」は社会の益にならないどころか、大きな害になるからである。


本書で残念なことは客観的なデータを持って現在と比較していないこと。例えば昔の方が残酷な少年犯罪が多かったといいたいのならば、新聞の犯罪報道を羅列するだけでなく、きちっと数字で示すできだろう。本書はそのような科学的な姿勢を持って著されているとは言い難い。残酷な犯罪報道を羅列しているだけだ。もっともデータがなくそれは難しいのかもしれない。ただ、羅列された少年少女犯罪報道は私たちの固定観念を一気に崩すだけの力を持っている。それだけ、年齢の低い人がそこそこ頻繁に残酷な犯罪を行っていたようだ。


もう一つ指摘すると、戦前の新聞に載る犯罪がどのようなものなのか、はっきりすべきだった。戦前と現在の新聞は、スタンスが違うように思えた。読者は最近の犯罪報道と本書で紹介されている戦前の犯罪報道を頭の中で比較しながら読むのだから、戦前と現在の新聞のスタンスが違ったならば、読者に誤った印象を与えかねない。本書を読む限りだと、戦前の新聞の方がゴシップ性が強いように感じた。そうだとするならば、単純に戦前と現在の犯罪報道を比べることはできないだろう。



ネット上の記事(http://www.bk1.jp/review/0000462782)である人が、本書は「キレる」「ゆとり世代」「援助交際」「ニート」「学級崩壊」など、「現代の子供たちや若年層の「病理」を説明する道具として使われる概念」が意識的に「戦前の子供たち、及び若年層」に「「現在」の教育言説に対するパロディであり、また皮肉」として使われていると指摘している。
なるほど。



なお、著者は主催のウェブサイトでこう語っている。


「たとえば一番基本的なデータである警察庁の『犯罪統計書』なども国会図書館警察庁まで出向かなければすべて見ることはできず、ウェブ上にアップされてるのはわずか数年分だけで、それ以前の一部を取り出しただけの少年犯罪データベースの統計がいまだに頼りにされてるような事態で、それもその方面の専門家と称する学者先生でさえ素人の私がこちょこちょ造った統計をあてにしているような惨状で、まことに現状はゆゆしきことであります。
愚にもつかない感想文のたぐいを本やブログに書いてる閑があるのなら、まずこういう基本的なところを抑えておくべきではないのか。基本的データがない状態で、ものごとを正しく考えられるはずがありません。そんな感想文は、宇宙人の電波を脳内で受信してわけのわからないことを口走ってる人のたわごととまったく同じです。<少年犯罪データベース>のトップページには「データの完成度は50%」という文言が2004年からずっと掲げられておりますが、新しいデータを毎日積み上げていってもその分まだ判っていない領域が拡がっていることを思い知らされるだけで、当面は50%を超えられそうにありません。
少年犯罪が増加していると云ってる人だけではなく、昔のほうがひどかったと云ってる人もほんとにきちんと調べてそんなことを云ってるのかせいぜい統計数字を見てるだけではないのかと私はずっと疑問でこんな途方もない作業を続けてきたわけなんですが、少年犯罪データベース主宰である私は、いまだ何かを考えられるほどの最低限の基本的データを持っておりません。
少年犯罪以外の分野はなおさらのこと。考える前にやるべきことはまだまだいくらでもあります。
みなさんも考えることはやめて、先にやるべきことをやりましょう。」


「こういう事件データをやたらと集めているのは、戦前のひどさに驚いていただきたいわけではなく、ちょっと調べればわかるこの程度のことさえ知らないような人々が偉そうに日本について語ったりしている現状に大いに驚いていただきたいわけなのです。」


《20080301の記事》