戦場特派員

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戦場特派員
橋田信介 2001 12 20 実業之日本社


戦場特派員、橋田氏のレポートとでもいえようか。世界を見てきたうえでの貴重な提言もいくつか納められている。ちなみに著者は2004年5月27日、イラク戦争取材中にバグダッド付近マハムディヤで襲撃され、甥の小川功太郎とともに殺害された。


彼は世界各地の戦場を取材してきた。ベトナムベトナム戦争)、カンボジアカンボジア内戦)、タイ、ミャンマーイラク湾岸戦争)、ボスニアボスニア紛争)、キルギスパレスチナなどなど。まさにフロントライン。戦場の第一線だ。企業に所属した後はフリーで活動しており、その他の日本のジャーナリストと比べかなりつっこんだ現場で取材してきたようである。


彼がいてレポートしてきたところは戦場。戦争ではないと著者はいう。本当の戦争は戦場ではなく会議の場で行われているというのだ。もちろんそれに戦場の状況は影響するが。


なんとも過酷な世界だろう。戦場にあっては恐怖が支配する。恐怖が全てだ。そんななかでも、戦争の原因とそれを解決する政治的手段を考えるのが「本当の」戦場記者だと説く。


すさまじい世界。人が人を殺すことが合法化され恐怖が渦巻く世界、戦場。読者はその究極の世界で著者同様、性善説性悪説の狭間に立たされるだろう。


彼の冷静な視点がいい。もちろん、戦争という現場にいればなおのこと無意味とも感じる殺し合いに対する怒りはある。けれども彼の書き方は何かを超越しているようだ。人間のバカさをとことん知った人の書き方とでもいうのか。全体的に怒りを通り越して冷静に戦場での経験を描写している。 もうどうしようもないとでもいうように。


彼はあとがきでこう書いている。
『 戦争を擁立するのは、われわれの社会の中にしぶとく生きている「得体の知れない何か」である。私の父も「何か」に動かされ、説明のつかないまま戦争に荷担したのだ。
 本書の最終の目的は、この「得体のしてない何か」を明確にすることだった。しかし、私の力では到底おぼつかなかった。悔しいがいたしかたない。何人かの読者が「何か」を察してくれればと念ずるのみである。』
戦場を渡り歩いた橋田氏は、激しい殺し合い憎しみ合いが支配する戦場で何を見、また感じたのだろうか。


この「得体の知れない何か」を読者はなんとか感じて欲しい。平和のなかに安寧している人たちになんとか感じて欲しい。冷静に戦場を見つめる筆者の目のうちに、その「得体の知れない何か」(人間の醜くどうしようもない本性とでもいえるもの)をきっと感じ取ることができるはずだ。


《20070217の記事》