かえらない時間

キミ、タバコを吸いに喫煙所に行く
我、キミと話すため喫煙所に行く
喫煙所は校舎の裏口、階段のそば
青い青い空の下、春の日は優しく喫煙所を包む
空気はちょっと冷たく、日の光は心地よく暖かい


キミは「次授業ある?」と聞く
ボクは「ないよ」と言う
ボクは「今からバイト?」と聞く
キミは「ないよ」と言う


クスからもれる光は眩しく、
葉のみずみずしいことには心洗われるよう
クスに宿るコケも、若々しいうす緑色に輝く


クスの葉のさざめきは、今日の風の強さを告げる
おかげか、紫煙を特別、不快に思うことはない


あれ、雨も降っていないのに雨のにおいがする
いや、知っている、これは雨のにおいではなく
雨の時にクスやコケの放つにおいだ
どうして雨が降っていないのにそのにおいがするのだろう?
分からない
とかく、人はこんな時、ただ春のにおいを吸い込めばいい


ふと、話が止んだ
しばらく日の光を浴びた後
ボクは「本を読まなきゃ」と言う
キミは「宿題をしなきゃ」と言う


爽快に輝くクスの並木の中
強風に背中を押されながら、図書館へ歩き思う


ああ、この時間は二度とかえらない


《20060420の記事》