単独飛行
単独飛行
ロアルド ダール著 永井淳訳 1989 11 30 早川書房
「少年」(未読)に続く自伝。シェルの社員としてダルエスサラーム(タンザニア)で過ごした日々と英空軍パイロットとしての数奇な体験からなる。
私の世界からは想像もつかないような世界だ。列強の支配を受ける植民地の国々。過酷な戦況。そして、そこで必死に生きる人々。
多くの写真があり、どこか滑稽さを持った暖かいものばかりである。よく見ると写真には笑っている人々が多い。
自伝ではあっても、どことなく自分から視線が離れ小説のよう。思わず一兵士としてこの理不尽なWW?の一端を担ってるような気がした。
彼は自分から空軍に行くことを希望し、過酷で理不尽な戦況を戦友と共に駆けめぐる。戦争は残酷で悲しくて恐ろしいはずだ。多くの戦友を失い、何度も命の危険にさらされただろう。そんな戦争の中でも彼は、ユーモアを失わずアフリカの空を飛ぶ。空を飛ぶということは、そんなに気持ち良くて、心躍ることなのだろうか。
けれども、今の私たちには二度と彼のみた空はみれない。硝煙の中、空を飛ぶこともないし、未開の、ほとんど近代人が足を踏み入れたことのない空もない。あるのは電子機器に囲まれた空飛ぶ空間と人になじられた空だけだ。
それでも、、、空は私たちにとってまだ残された未開の地である。そして叶うことなら、未開の地でありつづけて欲しい。もし、空が未開の地として認識されなくなったならば、私たちのいう「空」はなくなり、そこからあらゆる人間の夢や憧れや希望や美しさや開放感や清々しさや冒険心のない骨抜きの「空」が残るだけだろう。
21世紀初頭。まだ「空」は空である。そして、「空」が空であることを希望する人がいる。
ロアルド・ダール(Roald Dahl, 1916年9月13日-1990年11月23日)はイギリス、ウェールズ出身の作家・脚本家である。
家系はノルウェーの出。シェル石油で働き、タンザニアやカナダにも行ったが、第二次世界大戦が始まってからはイギリス空軍の戦闘機パイロットとして従軍した。乗っていた飛行機が墜落し脊髄に重症を負うも、なんとか生還した。しかしこの傷は後々まで彼を苦しめることになる。
その後、アフリカで聞いた不思議な話やパイロット時代の経験を元に小説を書くようになった。ある作家が、取材のためにダールの飛行体験についてメモを書くよう依頼したが、そのメモの素晴らしさにそのままダール名義で出版されたことがきっかけでデビュー。1942年にはすでにグレムリンの話を書いていた(これをディズニーが映画化しようとしたが頓挫)。風刺やブラックユーモアに満ちた短編小説や、児童文学で有名。
007シリーズで有名なイギリス人作家のイアン・フレミングの友人である事から、映画『007は二度死ぬ』と『チキ・チキ・バン・バン』の脚本も手がけた。
1953年に女優のパトリシア・ニールと結婚したが、1983年に離婚した。
《20060304の記事》