ヤバい経済学(悪ガキ教授が世の裏側を探検する)(増補改訂版)

ヤバい経済学(悪ガキ教授が世の裏側を探検する)(増補改訂版)
ティーヴン・D・レヴィット スティーヴン・J・ダブナー 望月衛訳 2007 東洋経済新報


【「BOOK」データベースより】
アメリカに経済学ブームを巻き起こし、170万部のベストセラーとなった話題の書。若手経済学者のホープが、日常生活から裏社会まで、ユニークな分析で通念をひっくり返します。犯罪と中絶合法化論争のその後や、犬のウンコ、臓器売買、脱税など、もっとヤバい話題を追加した増補改訂版。


【感想やメモ】
☆経済学者のスティーヴン・D・レヴィットの研究を、ジャーナリスト、スティーヴン・J・ダブナーが文章化したのが本書。


☆日々の出来事や謎を、経済学の分析手法を用いてせまる。


☆文章が面白い。
ex、「凶悪殺人鬼は「どこにでも現れた。週刊誌の表紙を見ればやつらがガンを飛ばしていた。役人が書いた数十センチの厚さにもなる長い報告書の中でも風を切って登場していた。」p1
(skycommu注・表現のおもしろさに注目して欲しい。別に本書は、凶悪殺人鬼の恐ろしさについて書かれているわけではない。むしろ一般人の妄想する犯罪の像を壊すことから本書ははじまっている。)


☆数字を丹念に集めて、それを読み解いていく本書の姿勢は、非常に説得力がある。しかしその分、著者の主張をうのみにしてしまいやすく、ある意味、受容するのは難しい。


もっとも、非専門家に有意義な批判はなかなかできないというのは、別に本書に限った話ではなく、科学書ならどれにでもいえることである。

また、内容について、その正誤を見極めるには実にさまざまな要素がいるが、そういうのを詰め込むと、めっちゃぶ厚くなったり、注だらけになっちゃうので、一般向けの本としては難しいところではある。そういう点では、本書は、一般向けの本として、まあ妥当な量、内容だとはいえる。


☆本書を読んでいて、データを単純化して捉えすぎではないかと思えるような部分が少しあった。例えば、金持ちと貧乏人を一緒くたにして分析しても、意味のある結果にならないこともあるだろう。金持ちと貧乏人では、金に関する行動に大きな違いが出る。だから金持ちと貧乏人を一緒に分析すると、データが変に薄まったり、濃くなったりすることがあると考える。といっても、そういう部分はほんの少しだけれどね。


☆著者らは、本書でさまざまなことに言及しているけれど、そのなかでも一番反響があったのは、妊娠中絶を認めると、その数年後には犯罪率がぐっと下がるという主張のようだ。警官を増やすことや、重罰化などよりも、ずっとずっと犯罪率の低下と高い関連が認められるという。さまざまなデータをもとに、妊娠中絶を認めた州はその数年後、犯罪率が減っていることが認められる。
妊娠中絶が認められると、子どもを育てることのできない環境にいる親は、中絶するようになるだろう。すると、貧しい子どもが減る。そしてそのまま、犯罪の中でも、貧しい子どもたちが、その貧しさゆえに起こしていた犯罪が少なくなるということである。なお、著者らは中絶の善悪を言ってるんじゃなくて、その結果を指摘しているのみ。
中絶を認めると犯罪が減少するというのは、刺激的な研究結果だから議論がわき起こるのも当然なのだろう。しかし、著者らの説明は確かに理にかなっていると思う。


☆データを丹念に追っていくと、人の本性が暴かれているように思う。欲望でいっぱいの人の姿が浮かび上がっていくように思う。(欲望が満たされるように行動しているということに、個々が自覚的かどうかは別問題)
意識的にしろ無意識的にしろ、人はだいたい、自分の欲にかなった行動をとっているのだ。それが本書では、データを分析した結果として示されていて、おもしろかった。


☆「通念は、単純で都合がよくて居心地よさそうで、実際居心地がよくなければならないーー正しいとは限らないけれど。通念は必ず間違っていると言いきるのはバカなことだ。でも、どこかで通念は間違っているかもしれないと気づいたらーーいい加減な、あるいはお手盛りな考えが残した飛行機雲に気づいたらーーそのあたりは疑問を立ててみるのにはいいところだ。」p102
「専門家はマスコミが必要だし、マスコミも同じぐらい専門家が必要だ。新聞の紙面やテレビのニュースは毎日埋めなければならないわけで、人騒がせなことをしたり顔で喋れる専門家はいつも大歓迎だ。マスコミと専門家が手に手を取って、ほとんどの通念をでっち上げている。」p103


有識者」なる人物の提言という名の「感想」が、新聞やテレビには溢れんばかりだけれど、本書みたいに、データをきちっと分析して考えていくことは大事だよね。経験に裏付けられた「感想」も、何か的を得ている「かも」知れない。でもあくまでそれは、「かも」にすぎないんだ。