カラシニコフ

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カラシニコフ
松本仁一 2004 朝日新聞社


【「BOOK」データベースより】
内戦やクーデターが起きるたびに登場する銃、カラシニコフ。開発者カラシニコフシエラレオネの少女兵、ソマリアのガードマン、作家フォーサイスなどへの取材を通し、銃に翻弄される国家やひとびとを描く。朝日新聞特派員として数々の紛争取材に携わった著者による迫真のルポルタージュ


【感想やメモなど】
☆世界では紛争を続けている地域がたくさんある。多くの犠牲者が毎時間毎時間生じていいる。その紛争地域で大きなシェアを占めているのが1947年式カラシニコフ自動小銃AK47と呼ばれる。本書によると、カラシニコフの登場は、戦争のあり方、紛争のあり方そのものを変えてしまったらしい。カラシニコフとはそれほど世界に、人類に大きな影響を与えた自動小銃なのである。旧ソ連をはじめ、共産圏諸国で作られ、世界中の紛争地域に広がった。本書は、そのカラシニコフに焦点をあて、現在、世界各地の紛争地域でおこっている悲惨な実態をリポートする。


☆本書は、写真が多く載っている。ぱらぱらと写真を見ながら、そして、適当に目についた文をざっざと読んで、この本はやばいってすぐ分かった。すごい本だってすぐ分かった。粗末な家屋を背に銃を持つさまざまな人々。青年、少年、おっさん、女。粗末な背景に、凶悪な武器を手に取る「無垢な」彼らを写した写真は、彼らの過酷で簡単には解決できない現実をまざまざとつきつけてくる。写真はおそろしく雄弁だ。


AK47の特徴は、単純な構造である点だという。「スカスカのすき間、少ない部品、重いスライド、短い薬莢」p82


☆本書によると、AK47は整備が簡単。毎回整備しなくてもよい。故障は少ない。扱いが簡単なことから、10歳前後の子供でも使えるため、多くの少年が兵士として、ときに拉致され、育てられることになったそうだ。古来、戦闘は武士や騎士階級などのプロ集団に独占された行為だったという。刀や槍は相当の訓練を重ねなければ扱えない、p48。しかし、銃の登場はそれを一変させた、p48。「名もない農民兵の放つ銃弾が、戦闘のプロである騎士たちをばたばたとうち倒した」p48。それでも「二年なり三年なりの兵役訓練」が必要であった、p48。しかし、扱いの簡単な自動小銃が現れたことによって子供でもちょっとした訓練で兵士になることが出来るようになったのである、p48。本書ではこのことを、「『人を殺せる層』は一気に拡大した」と表現している。なるほど。


☆本書を読んでいて感じたのは、AK47のすごさである。
もちろん、扱いの簡単なAK47のせいだけで、少年少女が人殺しの道具として、駆り立てられているわけではないだろう。大人の、いや人間の欲望や嫉妬、暴力性が、子どもたちを兵士にさせたと第一には言える。しかしそれでもなお、AK47というたかが一種の自動小銃の影響力は無視できないと思った。それほど、AK47は、扱いが簡単なことから紛争地域に広まり、絶大な支持を受け、混乱と悲劇を生み出しているからである。


☆本書では、「失敗した国家」という考え方が示されている。政府に、治安や教育、交通システム、その他インフラを整備する意欲のない国のことである。政府高官は利権や軍事力警察力をたてに私腹を肥やす。その政府高官をうち倒そうと、国の各地で反乱が起こるが、結局反乱が成功しても、その首謀者たちは、反乱のすえ得た軍事力や警察力を、今度は自分の私腹を肥やすことに使ってしまう。自分たちがうち倒した人々と同じことを繰り返しているのである。
本書の著者によると、兵士や警官、学校の教師に、きちんと給与が支払われているか否かが、「失敗した国家」か否かを見分ける鍵だそうだ。


☆本書の内容。
反政府ゲリラに拉致され、少年兵にされた子どもの話。
AK47が誰でも戦争をできるようにしてしまった。
AK47がないと、生きていけない世界の話(ソマリアモガディシオ)。
治安や教育、交通システム、その他インフラを整備するなどして国を作っていこうとせず、政府高官が金をため込むことしかしない悲惨な国の話。
犯罪が増えつつある南アフリカ共和国の話。
その地域に住む人々の力で銃を回収し、平和を取り戻したソマリランドの話。