天才と分裂病の進化論

天才と分裂病の進化論
デイヴィッド・ホロビン 金沢泰子訳 2002 新潮社


【新潮社ウェブサイトより】
創造性を持つ人間と、持たないチンパンジー。その違いは、今では忌み嫌われる脂肪にあった……。脂肪は、人類が知性を獲得したメカニズムに関係があるのか? 進化の過程で分裂病が果たした意外な役割とは? 天才を創り出す脳の神秘を、英国分裂病協会顧問の著者が大胆な仮説で解き明かすサイエンス・ノンフィクション。


【本書の主張】
□「思想家や偉業を成し遂げた人々の血縁者が分裂病あるいは双極性傷害など、重い精神疾患をかかえている例」が非常に多いことから、統合失調症など、精神疾患をもたらす遺伝子のいくつかが(統合失調症は、複数の遺伝子が原因で発現する)、「芸術、科学、音楽、実業、政治におけるきわめて創造的な業績」をもたらしたと主張している。精神疾患をもたらす遺伝子がたくさんそろうと精神疾患を発現するが、その遺伝子が少しだと、創造的な才能をもたらすというのである。本書は、ここから、芸術や科学などが人間を特徴づけるものである以上、精神疾患をもたらす遺伝子が人間を人間たらしめたと主張している。


□上の根拠に、どの地域でも、どの人種でも、どの政治形態でも、どの文化でも、統合失調症はほとんど同じ割合で見られることを本書は指摘している。つまり、統合失調症は文化や栄養状態にかかわりがないというのである。このことは統合失調症は、人類が各地域に分岐する前に、人間にもたらされたことを示している、と本書は指摘している。


□昔の人は、動物や藻類に多く含まれるドコサヘキサエン酸やエイコサペンタエン酸など、必須脂肪酸を大量にとることで、統合失調症などを発現する遺伝子が、統合失調症などを発現することを押さえていたと著者は指摘。しかし、農業革命や産業革命を経て、必須脂肪酸の摂取量が減少することによって、統合失調症などが発現しやすくなった、と著者はいう。統合失調症の患者に、必須脂肪酸を摂取させると、病状の収まりが見られたという。
「患者自身や血縁者の、奇妙で創造的な行為も増加したが、不幸なことに、暴力的で破壊的なサイコパスの行為の増加にもつながった。」


統合失調症の「遺伝子は宗教的感覚、技術、芸術の創造など現代社会における指導者としての資質にかかわっている」、と指摘。


【感想】
□主張に対する根拠が少ない。特に、人類と統合失調症の歴史に関するところはあまりに物語的で、実証性に欠ける。しかし、脳内脂質に関わる遺伝子の変異が、創造性をもたらすと同時に、統合失調症の種にもなったという指摘は、魅力的だと思ったし、筆者の主張は成立するような気がした。