第九軍団のワシ

第九軍団のワシ
ローズマリ・サトクリフ 猪熊葉子訳 1972 岩波


【「BOOK」データベースより】
ローマ軍団の百人隊長マーカスは、ブリトン人との戦いで足を負傷し、軍人生命を絶たれる。マーカスは親友エスカとともに、行方不明になった父の軍団とその象徴である“ワシ”を求めて、危険に満ちた北の辺境へ旅に出る。


【感想】
起源117年頃を想定したお話。大国ローマに属する主人公マーカス。マーカスも、マーカスの父も、ローマ国の軍人である。父はブリテン(現在のイギリス)に軍を率いて攻めいったが、その軍も、軍団の象徴である〈ワシ〉も忽然と消えてしまった。


マーカスは、奴隷出身の親友、エスカと共に、ローマに支配されていないブリテン北部に侵入し、父や、父の軍団、軍団の象徴である〈ワシ〉の消息を探ろうとする。


文明国であるローマに比べ、原始的な祭りを行うブリテンの氏族たちは、ある種、野蛮といっていいのかもしれない。生が、自然や神秘に土着しているといっていいのかもしれない。少なくとも、違う文化に身をおき、違う世界、違う人々、違う考え方、違う生活を、マーカスは体験するのである。それらを知ることは、自分の属する世界であるローマとの葛藤を意味するのではないか?


しかしマーカスは、文明の違いから葛藤を導き自分や世界を見つめ直すことはないのである。私はそれが少し不満だった。むろんこれは、自分の属さない文化文明は尊重しなければならないという現代の思想ゆえの不満かもしれない。しかしそうであっても、本書には全体的に、物語がポンポン進み、主人公の葛藤が少なく、味気なさを感じた。