リアル鬼ごっこ

リアル鬼ごっこ
山田悠介 2001年出版のものに加筆した文庫版 幻冬舎


【背表紙より】
全国500万の〈佐藤〉姓を皆殺しにせよ!――西暦3000年、国王はある日、7日間にわたる大量虐殺を決行した。生き残りを誓う大学生・佐藤翼の眼前で殺されていく父や友。翼は幼い頃に生き別れた妹を探し出すため死の競走路を疾走する。奇抜な発想とスピーディな展開が若い世代を熱狂させた大ベストセラーの改訂版。


【雑感】
小説の主人公は、特殊な能力を持っていることが多い。
大きなことでいえば、瞬間移動ができるとか、時間を止められるとか、この世のものならざるものを使役できるとか。
まあ、そんな大げさなものじゃなくても、絵がうまいとか、とても優しくてどんな人も殺せないとか、頭がすごく良いとか、小さな特殊能力をもつ主人公は多い。
この場合は、特殊能力というより他人より秀でた面といった方が性格かも知れない。
主人公には魅力がないといけない。魅力がないと、登場人物はもちろん、読者も、主人公の紡ぐ物語についていかない。
その魅力というものの一つが、主人公のもつ特殊能力(他人より秀でた面)なのだと思う。


さて、本作では、全国の「佐藤」姓をもつものは、一定期間、鬼とよばれる軍人から追いかけられるゲームが行われることになる。車や電車での移動は禁じられ、逃げる手段は自らの足のみ。捕まると殺害されてしまう。タイトルが「リアル鬼ごっこ」なのはここからである。


という、ぶっとんだ設定で本作品は進むのだが、僕がおもしろいな、と思ったのは、主人公の特殊能力(他人より秀でた面)が、「足がとても速いこと」だという点である。主人公の、佐藤翼は、短距離走の大会で全国一位になったことがあるほどの実力者なのである。
足が速いということが売りの主人公ははじめて見た。近年の作品は頭脳系が秀でた主人公が多いように思う。頭がよいとかね。或いは精神的な強さをもっているとか。
運動系が秀でた主人公もいるにはいるけれど、なんていうかなあ、サッカーがうまいとか、暗殺がうまいとか、頭脳プレイとかテクニカルなプレイに結びつくものが多かったように思う。


ところが本作の主人公は、単に足が速いのである。もちろん、複雑な家庭環境をもち、また、メンタル面でも優れているのだろうけれど、何より一番、主人公が翼であるのは、彼が足がとても速いからである。これはなかなかユニークだな、と思った。
本作は設定もいい加減で、世界も全然煮詰まってなくて、っていうかめちゃくちゃで、それはそれである意味興味深いんだけれど、主人公の特性は、素直におもしろいなと思った。


僕が読んだのは、文章を大幅に「直した」改訂版である。初出は、文章も設定も、もっといい加減だったらしい。特に文体面ではぶっ飛んだ文章であったらしい。有名なのは次の一文だろう。
「二人が向かった先は地元で有名なスーパーに足を踏み入れた」
このような文章を読んでぼろくそ言う人は多いだろう。けれども、僕はこういうのにわりあい寛容なので、改訂する前の初出を読んでみたかった。作者の意図しているところか意図していないところなのか分からないが、どんな変ちくりな文章が並んでいたのか関心がある。


なお、以下に掲げるサイトの書評は、よく分析されているし、その姿勢にも好感を持てたので、参考にどうぞ!
「読書感想文『リアル鬼ごっこ』 山田悠介著」(『よい子のBlog(季節のフルーツ添え)』2005年02月24日)
http://blog.livedoor.jp/tezzco/archives/14930298.html