「あたし彼女」の感想と推薦

今さらかよ!
そうです。今さらですw
一ヶ月ほど前に話題になった、第3回日本ケータイ小説大賞受賞作品、「あたし彼女」。
こんなの文学じゃないとかなんとか、相当ネット界では議論が起こっていましたね〜。
タケルンバ氏やリアルの友人が推奨していたこともあって、電車に乗ってる際に、少しづつ読み進めていました。
今さらかよ感がプンプン漂うけれど、簡単に感想をメモしておきたい。
ーーーーー
○純粋に面白く読めた。
なかなかいいテーマ性もあるし、これまでにないシカケもあって、じっくり読めるテクストだったと思う。
ぜひ、読んでみてほしい。バカにするなら、全部読んでからいっぱいいっぱいバカにしましょう♪
http://nkst.jp/vote/novel.php?auther=20080001
ーーーーー
○ストーリーを簡単に説明しよう。
人を愛することを知らないビッチと、亡くしてしまった想い人をいつまでも忘れられない男が、お互いの傷を舐め合い、また時にお互い傷つけ合いながら、人間的に成長し、本当の愛をはぐくんでいくお話。


人の変化・成長を描くという意味では、とっても王道のストーリー。
ーーーーー
○2人の視点がはいる。一人称小説として成功している。
基本的に、ヒロイン、アキの視点で物語は進む。
しかし、一つの章は、ヒーロー、トモの視点。
アキの視点で見せられ色付けられた世界が、トモの視点を通すことで、一気に崩壊し、2人の視点が合わさった、新たな世界が読者の前に立ち現れる。


シンプルだけど、一人称小説の良さをきちんと押さえていると思う。
ーーーーー
○本作品は、短い言葉を箇条書きにし、かつたくさんの改行があるという特異な文体をとっている。それを携帯で読むことで、物理的な時間の間をつくりだすことができている。
例)

アタシ

アキ

歳?

23

まぁ今年で24

彼氏?

まぁ

当たり前に

いる

てか

いない訳ないじゃん

みたいな

彼氏は

普通

てか

アタシが付き合って

あげてる

みたいな

ーーーーー
携帯を使って、スクロールして読まれることを想定しているのだろう。
短い言葉が箇条書きにし、かつ大量の改行がある。


そう。本作品は、不便な思いをしてでも携帯で読むべき。
短い言葉の箇条書きが一気に目に入るパソコンと、少しづつ言葉をスクロールしていく携帯とでは、作品の印象がガラッと変わる。
パソコンで見ると、なんだかバカっぽく見えるので、ぜひ携帯で読みましょう。


この、短い言葉を箇条書きにしているということと、たくさんの改行と、携帯でスクロールしながら読むということによって、読者の前に広げられた「あたし彼女」は物理的な空白が生じるのだ。


大量の改行のある部分をスクロールするあいだ、当然w、なんの言葉もない、改行された文が表示される。
これは画面上の空白であるんだけれど、それにとどまらない。
なぜならそれは、時間的な間を強制的に生み出すからだ。


読者は、スクロールして次の言葉を表示させるあいだ、強制的に、物理的な時間の間を体験することになる。


これはなかなか新しい表現だ。
芸術において、間というものほど、重要なものはない。
間が効果的に活きるか否かで、その作品の正否が決まると言っても過言ではない。


あたし彼女」で作り出されたこの、強制的な間は、これまでのテクストにない表現である。


例えば、映画なんかで主人公が、一瞬ためらった後に告白するシーンがよくあるだろう。
これまでの小説では、そのためらったときの間を、主人公の心情や風景描写、人物描写を描くことによって、或いは具体的にためらったということを記述して表現してきた。


一方、「あたし彼女」のように、大量の改行の部分を、スクロールして読むという行為によって、物理的に本当に、時間的な間を生じさせることができるのだ。
またこれは、短い言葉を箇条書きにしてあるからでもある。普通の文章だったら、読むのに時間がかかって、スクロールする感覚が一定しないだろう。「あたし彼女」は短い言葉を箇条書きにすることで、 韻をふむようにタイミングよくポンポンとスクロールさせる。このことが時間的な間を生じさせるのにとても重要なのだ。
もし、読むことを集中させる普通の長さの文で、スクロールする間隔と感覚が一定せずバラバラのままだと、大量の改行があっても、そこは単に、脳みその休憩の時間になってしまう。或いは、大量の改行によって生じた空いた時間が、大量の改行の上にある文章を理解するお時間となってしまうのだ。これでは、物理的な時間の間など、生じない。
つまり、
【短い言葉の箇条書き】+【大量の改行】【携帯の小さな画面でスクロールしながら読むこと】→【本物の時間的な間】
となるわけだ。


これはなかなか新しいし、面白い。
そして強力。
沈黙は金なりじゃないけれど、語らずに、しかも本当の間を生じさせられるのだから。

例)

トモは

洗い物をしている

泡だらけな

手で













アタシを

ふりほどいた













びっくりして

何も言えない

アタシ

トモは

焦って


『ご…

ごめん

びっくりして』





違う

びっくりなんかじゃない

アタシを

拒んだんだ


『う…

ううん

驚かせて

ごめんね』


なぜか

謝る

アタシ

ふりほどかれた

手に

飛び付いた泡が

ついて

床に

落ちる

トモは

目線を

そらして

下唇を

噛んで

また

洗い物を

始めた



アタシは

黙って

ソファに

座った

しかし、本作品では効果的ゆえ、安易な多様が目立ったように思う。
いやでも、難しいなあ。だってまぢで、強力だもん。
ーーーーー
○少ない言葉の中に、アキの、はっきりと言語化しない感情がよく読める。
例)

『お客様

こちらになります』


店員が

ブレスレットを

包んで

ブランドのロゴが入った

袋に入れて

持ってきた

少ない描写の中に、しっかりとブランド名が入る。
「あっ、アキってブランドにすっごく興味があるんだなあ」って分かるでしょ。
こんなテクストを読むのはぶっちゃけ楽しい。
ーーーーー
○対立する(反対の感情をもつ)「自意識」と「隠された本音、無意識」。


アキの「自意識」と「隠された本音、無意識」は物語初期は特に、反対になる。
この対立した感情が、アキの発言や行動によって、はっきりと言語化することなしに、どちらも上手に表象されている。
例)

なぁんか

別に

用事ないけど

トモに

メール

別に

理由ないけど?

メールするの

ダルいけど?

ただ

メールしたら

返信来るのかな?

みたいな

ただ

試し?

みたいな







今何してる系?

送信


ただ

これだけ

タバコに

火を

つける

なぁんか

落ち着かないし

わかんないけど






・・・・・・・









トモだ

早いっつ〜の

なんか

ウキウキしながら

メール見る

RE

仕事で今
パソコンいじってるよぉ窅


ぷっ

なんか

ウケるし



RERE

頑張って〜・
アタシは今まったり中・
いいでしょ(´∇`)/・



送信っと

トモにしたら

うらやましいでしょ?

みたいな

この文なんか、そう。メールするのがだるいとか内話しつつ、逆にウキウキした気持ちも内話している。自意識では、だるいと思っていても、無意識では楽しみにしてるわけだ。

つまり図式化するとこうなる。

『自意識』←対立→『隠された本音、無意識』

    ↑←《発言》→↑
    ↑←《行動》→↑
   (表象)

こういうテクストを詳細にみていくのは結構楽しいと思うよ。


《2008/10/31の記事を転載》