『こころ』×小畑健

期間限定で、集英社が出版する夏目漱石『こころ』の表紙を、「ヒカルの碁」や「DEATH NOTE」で有名な小畑健が書くらしい。


詳細は→ http://www.oricon.co.jp/news/confidence/55783/full/


大学生協に売っているのを偶然見、思わず手に取ってしまった。


理由の一つに、『こころ』という作品がとても好きだからということがある。
人間のやりきれなさを描いたすばらしい作品だと思う。


もっと大きな理由。
それは、小畑の書くその表紙が、『こころ』をよくイメージさせ表現していると思ったからだ。
それは、小畑の書くその表紙が、僕が『こころ』に抱いているイメージと同じだったからだ。


男と骸骨が並んでいる。
骸骨は、男と骸骨との関係、そして男に付きまとう破壊的悲しみを表現しているのだろう。
うまく『こころ』の主題を描いていると思う。



画像はhttp://www.oricon.co.jp/news/confidence/55783/full/より


和服を着、長髪で眼鏡をかけた若い男。
痩せている。
肩はこころなしかおちている。
目線は少し右下を向いている。
無表情とも見えるし、哀しそうにも見える。


男が今どんな気持ちなのか?
正確に判断することはできない。


左後ろに立つのは同じくらいの背丈の骸骨。
顔の向きは男とは反対を、少し左下を向いている。


その表情は・・・・・・・
どうだろうか?
もちろん骸骨だから分からない。
けれども僕には若い男と同じ表情、つまり無表情か哀しい顔をしているように見えてならない。


二人の背後には壁があるんだけれど、二人の間の壁は砲弾によって破壊されている。


きれいに破壊されているわけではない。ぐちゃぐちゃになって破壊されている。
まるで二人の関係を暗示するかのごとく。


壁に生じた二人の影を見ると、光源は二人の前面の中心にある。
おそらく、光源は強く、かつ二人に近い。そしてカメラの位置は光源と重なる。
まるで二人を見る僕たちが、彼らを糾弾しているかのよう。


壁の裂け目は真っ黒。
そこに真っ白な字で 『こころ』 と題名がうっている。いや、「こころ」という文字がのぞいている?
「こころ」って素敵な言葉だと思う。けれでも、砲弾で破壊されてできた暗闇からのぞく白亜の「こころ」という文字からは、周囲の雰囲気もあいまって、不気味な深淵しか感じられないのだ。


《2008/07/04の記事を転載》