復讐する海(捕鯨船エセックス号の悲劇)

超おすすめ!!
復讐する海(捕鯨船エセックス号の悲劇)
ナサニエル・フィルブリック 相原真理子訳 2003 12 10 集英社


【内容】
 1800年代前半。アメリ東海岸北部に位置するナンタケット島は捕鯨産業によって興隆を極めていた。そこを発った捕鯨船エセックス号。彼らは太平洋上で、マッコウクジラによって船を破壊され、小さなホエールボートでの漂流を余儀なくされる。その89日間にも及ぶ悲劇の漂流生活をレポートした衝撃の書。


【雑感】
 本書は、その漂流生活から生還した二人の船員、オウエン・チェイスとトマス・ニカーソンの手記をよりどころとしている。二人の手記をつかうことで、よりフェアな視点を獲得することに成功しているといえるだろう。


 だが、本書の最も評価すべき点は、クジラと密接に関わることで特異な文化として存在しえたナンタケット島や飢え・脱水が人体に及ぼす影響などにも深く言及している点である。また、他の海難事故にふれている点もより広範囲な興味を引くことに貢献しているだろう。本書はこれらの多様な視点によって単なる「エセックス号の悲劇」を脱し、より価値のあるレポートとなっているのだ。


 洋上で発見された乗員たちは、仲間の骨をしっかり握りしめていたという。黒人水夫から次々と死んでいき、ある時を境に死者は生者の糧となった。なかには、クジのよって、生ける者が、その他生ける者たちの糧として選ばざるをえなくなったボートもあった。


 苦難の旅の果てに仲間の骨の髄を啜らざるをえなくなった者たちがみた世界はどんなだっただろう。もしくはただ、望みを捨てまいともがくのに必死だっただけだったのかもしれない。


 いずれにせよ・・・・・・・「ひとたび終わりのときが訪れ、希望も情熱も意志の力も尽きはてると、あとに残るのはおそらく骨だけなのだ」


《2007/05/21の記事を転載》