戦国自衛隊

戦国自衛隊
半村良 初出1971 角川

内容(「BOOK」データベースより)

日本海側で大演習を展開していた自衛隊を、突如“時震”が襲った。突風が渦を巻きあげた瞬間、彼らの姿は跡形もなく消えてしまったのだ。伊庭三尉を中心とする一団は、いつの間にか群雄が割拠する戦国時代にタイムスリップし、そこでのちに上杉謙信となる武将とめぐり逢う。“歴史”は、哨戒艇、装甲車、ヘリコプターなどの最新兵器を携えた彼らに、何をさせるつもりなのか。

感想

○「「戦国自衛隊」半村 良 著(Kousyoublog)、http://kousyou.cc/archives/8839」に触発されて読んだ。

リンク先は、銃器やヘリコプター、装甲車の圧倒的な火力がバリバリ活躍する話というよりは、兵員や物を大量にすばやく輸送するトラックが活躍する話である、と指摘している。私もそうだよなあ、と思ったしだい。特にトラックや装甲車を運用するための、道路建設の描写が何度も何度も出てきて、印象的だった。
本小説は、道路をつくる物語だ。
その点、特に高度成長期に日本がバリバリ進めた国土強靭化政策を想起させられた。

○以上も例となるように、ロジスティクスや人心掌握、地図の重要性にふれていて、もちろんタイムスリップは荒唐無稽としても、戦略や戦争描写としてはリアリティがあるな、と感じた。これはもちろんよい点である。

○しかし、不満もあった。それは登場人物たちに深みがない点である。特に戦国時代人がそうだ。
悪意がない。素直すぎる。
戦国時代といえばあれだけの戦乱をくぐり抜けた時代だ。裏切りもあればだまし討ちもあった。侍たちは主君への忠誠を果たそうとしたが、それと同時に、侍たちは主君を天秤ではかりもした。そういう熾烈な環境を生き抜いている人たちなんだから、現代人を騙そうとするなど、もっと狡猾な指導者がいるはずではないか。そういうのがなくて物足りなかった。

○また、戦国時代人たちの人柄や思想もみえてこない。現代と比べ、社会制度も、政治制度も、家族制度も、死の身近さも、名誉のあり方も、忠義心も、何から何まで違う世界である。そういう人たちの生き様というか、考え方の違いがみえてこないと、そもそも歴史を舞台とした意味がないと思うのだ。

さらにいうと、そういう戦国時代人たちと、タイムスリップにあった現代人の思想的ないし具体的衝突もほしかったな、と思う。価値観と価値観のぶつかり合ったその果てにこそ、なにがしかの真実が隠れているのだから。