病気はなぜ、あるか 進化医学による新しい理解

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病気はなぜ、あるか 進化医学による新しい理解
ランドルフ・M・ネシー 2001(原著1994) 新曜社

内容(「BOOK」データベースより)

私たちのからだはこんなにもうまくできた構造をしているにもかかわらず、なぜ、病気にかかりやすくさせるような欠陥やもろさを無数に抱えているのだろうか。…進化的アプローチは、この神秘を一連の返答可能な疑問に変えてくれる。

メモ

(進化的説明は「なぜ」に答える)p7

(病気を理解し防止し治療するために、進化的起源・意味を考えることは大切)p8

「私たちは、自然界の生物は幸せで健康なものだと考えたがるが、自然淘汰は、私たちの幸福には微塵も関心がなく、遺伝子の利益になるときだけ、健康を促進する」

私たちを苦しめる病気も、子孫を残すうえで何らかのメリットがあったはずである。だから、病気を発現するDNA・体の構造は、子孫に代々受け継がれてきた。病気の進化的説明としての六つのカテゴリー
1、防御
咳やくしゃみ、発熱など。損傷した結果なのか、適応反応の結果なのか見分けることが大切。精神障害も防御がいきすぎたり、なかったりした反応。
2、感染
細菌やウィルスも常に進化し、人間の免疫に対抗。
3、新しい環境
ヒトの体はアフリカの大草原で狩猟や採集をしながら小さな集団で暮らすように設計されている。新しい環境との不一致により病気になることも。成人病、脂肪のとりすぎ、目の酷使、など
4、遺伝子
病気の原因になる遺伝子あり。病気を上回る利益を与える遺伝子だから生き残ってきた。
5、設計上の妥協
直立歩行はメリットになるが、腰痛も生じさせてしまう。
6、進化の遺産
進化は、徐々に進む。しかも、その一つ一つがすぐ役立つものでなければならない。このため歴史的な遺産に縛られてしまう。例えば空気と食物の通り道が一緒で、窒息の危険があるや、人間の眼球の盲点など。(p11他)

人間は妥協のかたまりp356

老化をもたらす遺伝子は、若い頃の繁殖成功度に影響を与えないので、淘汰されず残された。適応度に影響を及ぼすには遅すぎるような人生後半になってからでないと、その不利益がでないから。p356

少なくとも一人の血縁にない親と住んでいる子どもは、両親ともに生物学的な親である子どもよりも、虐待で死ぬ確率が七十倍も高かったp337

「医学者はまた、実験的な手法に凝り固まっているため、機能的な仮説を考慮するのをためらうかもしれない。彼らのほとんどは、その教育の初期に、科学は実験的手法によってのみ発展するのだと強く教え込まれるが、それは間違っている。多くの科学の発展が理論によって始まっているし、仮説の検証の多くは、実験的手法に頼っていない。たとえば、地質学は地球の歴史を再現することはできないが、それでも、どうやって盆地や山地ができたのかについて、はっきりとした結論を導き出すことができる。進化的仮説と同様、地質学の仮説も、手持ちの証拠を説明し、既存の記録にはない新しいことがらを予測することで、検証できるのである。」p365

ダーウィン医学はより普遍的なレベルから人間のからだと病気を眺める視点を提供」「進化という赤い糸は、既成の学問領域を越えて、人間に関する諸科学を結びつけ、さらにそれらを統合できる力を持っている。」訳者あとがき


【感想】
進化生物学の知見を医学、すなわち病気に応用する。病気の見方が変わる。おすすめ。

人間の体や精神は適応の結果、生まれたもの。つまり進化の産物だということを明らかにした進化生物学について、ある程度知識がある人はがんがん読めるだろう。ダーウィンの進化生物学は人間やその心の見方を大きく変えた。進化生物学を病気に応用した本書を読むと、病気だけでなく、進化生物学に対する新たな見方も深まると思う。進化生物学の応用範囲は広い。
今後は、社会学政治学の分野でも、もっともっと利用されるべきだろう。