知ってる古文の知らない魅力

知ってる古文の知らない魅力
鈴木 健一 2006 講談社

内容(「MARC」データベースより)

徒然草の有名な書き出し「つれづれなるままに、日ぐらし…」、実は兼好法師のオリジナルじゃない!? ひとつの表現が作品から作品へと旅をしていく魅力、いわば「表現の連鎖」の面白さを、誰もが知っている古文から探る。

感想

「文学作品は、過去の作品表現の集積によって成り立っている。すぐれた作品はその上に新しい価値を付与したものだ。」p10
という視点を軸に、枕草子など、有名古典について論じる。過去の文学作品からどういう影響を受けたのか、あるいは以降の文学作品にどんな影響を与えたのか、ということに各作品で触れており、それを本書の軸にしたかったようだ。
「共同性と個性」という表現が使われる。ある古典文学はどういう点で日本文学の歴史や日本文化によりそっているのか、そして逆に、どういう点に個性が見いだせるのか、という問題意識である。おもしろいテーマ設定だと思った。

メモ

「自分の娘が天皇に寵愛され、次代の天皇となる皇子を産み、外戚となる。このことが政治権力に直接関わるという構造に支えられて、中宮サロンの文化的レベルは引き上げられていきました。サロンの活気が天皇の関心を引き付け、ひいては愛をもたぐり寄せることができる、そう考えられたわけです。」p76

(枕草子には、伝統的な美と非伝統的な(作者オリジナルの)美を混在させている。)p82

(芭蕉が、「奥の細道」の旅で設定した目的。
1、自然ふれあう。江戸という都市空間では味わえない雄大な自然に直に接し、自然の一部としての生命体である自己を回復する。
2、人間と出会う。江戸では会えないような人たちと触れあって、心の在り様を模索する。
3、古人の軌跡を確かめる。歴史的存在としての自己を確認する。)p111

(「竹取物語」では、個々の人間としての精神的な在り様に焦点があてて描き出されている。
悩み苦しむことのない月の人から、かぐや姫が人間的になっていく過程を描くことによって、人間の苦悩や弱さにも前向きな評価が付与されている。)p142