昭和史 1926-1945

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昭和史 1926-1945
半藤 一利 2004 平凡社

内容(「MARC」データベースより)

日本人の精神構造には何が欠けていたのか? 日本人はなぜ戦争をするのか-。日中戦争から太平洋戦争の時代を検証、「底なしの無責任」がもたらした悲惨とは何かを問い、未来を選び取るために今、考えることの重要性を訴える。

感想

○昭和前半。1926〜1945年。
日本は、清やロシアとの戦争に勝利し、大国として帝国として、世界列強の仲間入りしようとした。日露戦争の勝利における遺産を受けて、満州を日本の国防の最前線として領土にしようとした。その日本が、「自惚れ、のぼせ、世界じゅうを相手にするような戦争をはじめ(p14)」、太平洋戦争の敗戦に向かって「滅びの40年の真っただなかに入る(p15)」時代。
本書はその、昭和前半の日本の動きを語る。

軍が暴走し、マスコミが暴走し、軍部が暴走し、政治が暴走し、国民が暴走する。敗戦に向けて、多くの日本人の命と、勝ち取った領土が失われた。
その過程をみるにつけて、この時期の日本のリーダーたちはなんて愚かなんだろうと、あきれ果ててしまう。
筆者が指摘するところだが、
つまるところ、目的なし、戦略なし、計画なし、責任なし、反省なし。
軍も政治家もマスコミも国民も、みんな世界情勢を全然把握しようとしない。
諜報戦には完敗。
新聞をはじめとするメディアは、部数が売れるから、戦争を煽りに煽る。
日本が今どんな状況にあり、どの程度実力があるのか分析しない。
明らかな事実をみない。
軍部は勝手に戦闘する。
自分たちの都合のいいようにいいように、物事を無理矢理解釈する。物事は自分の都合のいいように動くと考える。
抽象的で観念論を非常に好み、具体的で理性的な方法論を全く検討しない。
先を読んで行動しない。その場限りの対処に追われ、結果もっと悪い方に向かってしまう。

多くの日本人が犠牲になったと思うと、あらゆる分野の人々の稚拙稚拙稚拙さにあきれてしまう。

日本の都合のいいように戦争を回避するチャンスは何度かあった。そのチャンスも結局、根拠のない自信過剰で全部おじゃんにしてしまう。
この狂乱で多くの人間と領土が失われた。私たちはこの歴史こそ、教訓として学ぶべきだろう。日本は海に囲まれ、それほど外圧もなく、安穏と独自の文化と歴史を積み上げてきた。その日本が、文明化し、外国と激しく折衝した。わずかばかりの勝利に酔いしれ、国全体が狂乱の渦となり、自信過剰に陥り冷静な分析と目標達成に向けての理性的対応ができなくなった。昭和前半は、日本がはじめて世界と本格的に折衝し、つかの間の勝利の後、大失敗した歴史なのである。

○とまあ、怒りに震えるような歴史である。が、ちょっぴり皮肉が入った語りもあり、読みやすくおもしろい。

○著者に指摘する昭和の日本のリーダーたちの愚かさであるが、これは現在の日本にも十分通ずるのではないか。特に、方向が定まったら無批判にみんなでどたどたと殺到するところや、具体的にシステムを改善するのではなく浅薄な道徳論を振り回すところや、大局的な目標を鑑みずその場その場の対処に拘泥するところや、世界の潮流に気づかず国益を損ねてしまうところなど、全く今と同じだ。これが日本人の特徴なのか。あるいは人間の特徴なのか。自らのこととして反省したい。