図解雑学 名将に学ぶ世界の戦術

超おすすめ!
図解雑学 名将に学ぶ世界の戦術
家村和幸 2009 ナツメ社

内容、表紙・裏表紙より

 世界の戦史における勝敗の決定的瞬間を解明することを目的に作られています。攻撃、防御、後退行動・遅滞行動、奇襲・急襲・強襲といった戦術それぞれを具体的な例を挙げ、図示してわかりやすく解説しています。
 本書は、古今東西の戦いにおける偉大な指揮官たちの判断や行動を追体験することにより、戦いに勝つための原理や原則を具体的に理解できるようになっています。世界の戦史における勝敗の決定的瞬間を解明することを目的に、戦術の観点から戦いを解説した一冊です。

感想

超おすすめ!
 すばらしい。濃密。1ページ1ページ、1戦1戦が重い。
 数々の陸戦を、戦闘地域地理や布陣、戦術機動の図示とともに紹介している。
 本書の良いところは、有名な戦いとその戦術をただ羅列し紹介するのではなく、テーマ(攻撃や防御、遅退行動、奇襲など)を定め、そしてそのテーマを説明するために、実際にあった戦いとその戦術を紹介している点だ。戦術とは何かを学ぶ上で効率的な構成だと思う。
 本書には多数の地域の多数の戦がでてくる。日本はもちろん、ヨーロッパに、近中東、中国。
そして、アレキサンダ大王の登場する紀元前331年のガウガメラの戦いから、ソ連が降伏後に日本に侵攻してきた1945年の占守島の戦いまで、古代から中世、近世、近代に至るまでの無数の戦が出てくる。
無数の戦争。
無数の地域。
無数の時代。
無数の欲望、願い。
それを叶えるための無数の戦略目標。
それを叶えるための無数の戦術。
それを支えた無数の死。


 本書に載っているのは、人類史におけるごくごく一部の戦争に過ぎないのだろう。けれど、双方の事情や目的、戦術機動、結果をきちっとおさえて、数々の戦争をギュッと詰め込まれると、それはもう、ただただ圧巻としか言いようがない。


 人が掘りまくってきた欲望とその犠牲は、興奮するほどに、深い。

メモ

「戦いの究極の目的は、敵に我の「意志」を強要すること」p8
「意志とは「目的(何のため)」「目標(何をする)」の形で現れる」p8
「「戦い」とは、先に「負けた」と思った側が負ける場合が多く、その意味で指揮官の性格が勝敗にもたらす効果は極めて大きい」p8
→実際に、本書に載っている陸戦を見ているとそれを強く感じる。自分たちの方が数が多いはずなのに、囲まれたり、奇襲されたり、退路をおさえられたりすると、ぼろぼろと撤退する例が多い。
「攻撃行動には、進出地域や方向により「迂回」「包囲」「突破」の機動方式があり、戦勝は多くの場合「包囲」によりもたらされている。」p21
「戦いは戦力を徹底して集中した側あるいは奇襲に成功した側が勝つ。古今東西の戦例はこれがほぼ例外無く正しいことを実証している。」p24
「戦力は敵が予期または準備していない側面や、背後に向けて加える場合に非常に大きな効果を発揮する。包囲はこうした有形戦力発揮の面からも、また心理的に敵を圧迫するという無形戦力の面からも、最も有利な方式である。」p48
「包囲の成功は必ずしも兵力の大小によらない。戦史上は包囲を実施して失敗するよりも、包囲を躊躇して失敗した例の方がはるかに多い」p48
「一部による包囲でも敵に及ぼす心理的効果はきわめて大きい (略)軍隊においても背後に進出した敵に対しては、たとえ微弱な部隊でも大きなショックを受けるものである。このことが固定状況を一挙に浮動状況に移行させて大部隊を崩壊させるきっかけとなることもあり、反対に完全包囲下の部隊や兵士に必死の覚悟を奮起させ、徹底抗戦に導く場合もある。」p54
「河川を障害物として直接陣地を設ける方法と主力を河川後方に置き敵の半渡を反撃する方法があるが、前者の成功例は古来ほとんど無い。」p228