論より詭弁(反論理的思考のすすめ)

超おすすめ!
論より詭弁(反論理的思考のすすめ)
香西秀信 2007 光文社

【カヴァー折口より】
私は、論理的思考の研究と教育に、多少は関わってきた人間である。その私が、なぜ論理的思考にこんな憎まれ口ばかりきくのかといえば、それが、論者間の人間関係を考慮の埒外において成立しているように見えるからである。あるいは(結局は同じことなのであるが)、対等の人間関係というものを前提として成り立っているように思えるからである。だが、われわれが議論するほとんどの場において、われわれと相手との人間関係は対等ではない。われわれは大抵の場合、偏った力関係の中で議論する。そうした議論においては、真空状態で純粋培養された論理的思考力は十分に機能しない。

【雑感】
 超おすすめ!! 批判的思考を身につけたい人はぜひ読むべきだ!
 本書の姿勢で面白いのは、文章を書き、そこに何かを表現しようとした時点で、そこに「詭弁」が生じるというものだ。著者があげる簡単な例に、ものごとを書く順番がある。「ゆきちゃんは、かわいいけれど、礼儀がない」と「ゆきちゃんは、礼儀がないけれど、かわいい」は、もちろんニュアンスが違ってくる。後に書いたことが、主となって印象的になってしまうのだ。そして、順番をなくして文章をつくることはできない。このように著者は、言葉を紡いだだけでそこに、事実ではない価値観が表出され、それが「詭弁」につながる、と指摘している。
 そして、またおもしろいのが、従来「詭弁」とされてきたものーーー例えば、相手の議論ではなく、相手そのものに議論と関係ない攻撃を仕掛けるーーーなども、実は論理的には正しいのではないかと指摘するのだ。


 それぞれ、常識から外れるが、著者の指摘は、非常に説得力がある。常識をみごとに逆転させられる。そして、読者は気づくだろう。このようなみごとな常識の反転も、論理の力、レトリックの力におっていると。
 このような力を身につけるため、そしてこのような力に惑わされないように、私たちは「論理」の勉強を努めて努めて努めて行わなければならないのだ。


 結局、論理や詭弁、レトリックも、ほとんど同じもので、立場によって名称が変わるだけだ、というのも重要な指摘かな。
 せっかくなので、下のメモを参照して欲しい。
 
【メモ】
「言葉で何かを表現することは詭弁である」


「詭弁とは、自分に反対する意見のこと」


「われわれが議論するほとんどの場において、われわれと相手との人間関係は対等ではない。われわれはたいていの場合、偏った力関係の中で議論する。そうした議論においては、真空状態で純粋培養された論理的思考力は十分には機能しない。」p14


「われわれの人間関係における力の不均衡がレトリックというものを必要とさせる。」p17

「間違っていそうなこと、そこに正しいものを見出せることもまた真の思想家の条件の一つである。」p24


「言葉によって何かを表現するとは、本来順序のついていないものに勝手に順序をつけて並べることである。(中略)本当の問題は、言葉による表現が、もともと順序のついていないものに順序をつけてしまうということ自体にあるのではない。それによって、本来の「事実」とは何の関係もない、ある効果が生じてしまうことである。」p28 (それは、客観的情報を与えるものではなく、語り手がその情報を自らの価値観にしたがって整理しなおしたもの)p37

「あるテクストの接続詞の使い方を観察することで、その語り手の価値観をてつけつすることも可能となる。」p38


「現実のモノ・コトと言葉とが、本来的に一対一で対応しているのでない以上、それを実現するのに、自分にとって最も都合のいい言葉を選択して使用することもできる。」p44


「「われわれが言葉を発するやいなや、われわれは聞き手に世界を、あるいはその一部を、われわれと同じように見るようしむけているのである。」」p50


「いかなる客観的な陳述も価値判断であることから逃れることはできないのだ。事実の陳述は、結局、陳述である。事実の陳述をひと皮むけば、そこには数多くの価値判断がひそんでいる。」p54


「勢力のない側の意見のみが詭弁として非難される」p93 「詭弁とは、自分たちの仲間が使ったときは単なる言葉のあやで、敵が使ったときのみ詭弁となるのである。」p100

他者の感想をメモ

「詭弁を学べば、「詭弁を学ぶことで相手が用いた詭弁を自らの武器にでき
る」、「人間がものを考える時の本質的な“癖”を知ることができる」と
いうメリットがあります。加えて著者は語ります、「欺かれるとは、間違
いを正しいと見なしてしまうことだけでなく、正しいものを間違いと見な
してしまうこと含まれるはず」と。
詭弁を必要以上に警戒しない姿勢が学べる本です。」
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「サブタイトルが「反論理的思考のすすめ」となっているが、情緒に任せての思考を推奨しているわけではない。論理的思考の急所を見極めろ、と言うことである。」
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「本書では、形式論理学、もっと広く非・形式論理学の知識を前提にしています。それらが非論理的だとして排斥してきた考え方も、「レトリック」から見ると有効な手段として使えるのではないかという目で再考されています。著者の解説に従って行くと、「虚偽」の論理とか、「詭弁」とか言われて、「まっとうな考え方」をしたいならば避けるようにいわれてきた思考法の中に、「レトリック」の宝が詰まっていることが見えてきます。」
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