漂泊人からの頼り

漂泊人からの頼り
ジェフリー・S・アイリッシュ 2002 南日本新聞


【内容紹介(アマゾンより)】
外国人が山里で暮らし、平凡の中に豊さを見つけ、ゆっくりと時の流れる日本の素顔を語る。


【雑感】
 アメリカ出身の著者。鹿児島の中でもずいぶんと田舎の、土喰集落に居を構える。そこにあるのは昔ながらの、土地に足のついた人びとの生活。本書は、著者が新聞に連載したエッセーを集めたもの。


 この本は、彼の切りとった世界が存分に披露される。僕たちが見ても見過ごすもの、生き物たちの営み、人びとの営み、日本の自然の営み。それが著者には興味深く見えるのだろう。著者の切りとった世界を見ていると、改めて、僕たちが失いつつある土地に根ざした生活がいかに躍動的で美しいものかが理解できる。


 著者には、私たちとはまた別の、豊かな日本の田舎が見えているのだ。もちろん、それには著者が異邦人であるということは大きな理由になっているだろう。またマザーランゲージが日本語ではないという面も大きい。しかし本書を読んでいると、自然を、人びとを、世界を愛そうという、自発的で、注意深い著者の姿勢が垣間見えるような気がする。だからこそ、著者は、私たちとは違って、土地に根ざした生活を美しく躍動的に切りとることができているのだ。


 「およっ!」と思った文章↓
「緑にあふれる鹿児島の田舎は、当然昔から開墾されている。満ちる潮のように、飼いならされない自然が山から下りてきて、火に刃に追い出されて、再び満ちての繰り返し。」p174


「今は満潮らしい。腹がふくらんだ海は、川の水を飲めない。」p91


「常連となっているおばあさんたちに踏みしめられ、堅くなっている墓場の地面を、足の速い島のアリたちは忙しそうに走り回っている。」p217