いじめの構造

超おすすめ!!
いじめの構造
森口朗 新潮社 2007


【内容、カヴァー折口より】
なぜ、いじめは起こるのか。いじめっ子といじめられっ子の境界には何があるのか。大人の目を狡猾に避けて隠蔽されるいじめは、理想論ばかりの「今時のいじめ」論からは絶対に理解できないし、解決もできない。「いじめの根絶は不可能」という現実を明確に直視した上で、いじめのメカニズムを明らかにし、具体的にどう対処すればよいのか、わかりやすく提示する。


【雑感】
 目から鱗が怒濤の如く流れ落ちた。決して新しい新規な概念を主張しているわけではない。しかし、現代のいじめの実態や、いじめを減らすための考え方を、非常に分かりやすく書いてある。特にメモしておきたいことは下にて。


 第二章では、「藤田英典のいじめの四類型」と「スクールカーストという考え」を組み合わせたいじめの四モデルを展開しているが、非常に説得力があるし、いじめを考える上で妥当だと考えた。


 項目ごとに箇条書きに整理されており、主張が読みやすい。


 皮肉の効いた文章。著者の、世にはびこるいじめに関する言説に対する怒りが感じとれる。その怒りには大いに共感するので、小気味良いし、痛快。


 新潮社も、このようなまともな新書をもっと出してくれたらなあ。


 ほとんどのマヌケな識者のように、口で「いじめはダメダメ」と繰り返しているだけでは、絶対に解決につながらない。どうしていじめが起こるのか? その心理学的構造は? その社会学的構造は?
 問題の起こる原因をきちんととらえてこそ、解決につながるだろう。本書はその手がかりになるし、そういう点から著述していると感じた。


【メモ】
「 子ども達は、中学や高校に入学した際やクラス分けがあった際に、各人のコミュニケーション能力、運動能力、容姿等を測りながら、最初の一〜二ヶ月は自分のクラスでのポジションを探ります。
 この時に高いポジション取りに成功した者は、一年間『いじめ』被害に遭うリスクから免れます。逆に低いポジションしか獲得できなかった者は、ハイリスクな一年を過ごすことを余儀なくされます。」p44


いじめのメリット→スクールカースト(グループ内ステイタス)の上昇 p79


 「問題は、被害者を癒すための方便が、客観的事実を表す言葉としてまかり通ることです。方便と事実は峻別しなければなりません。方便が他の分野の思考まで制約するくらいならば、そのような方便は、妄言として葬らねばならないのです。」p146


【著者が妄言と断じる、世に蔓延するいじめに関する言説】
妄言1「見て見ぬふりをするのも加害者」
妄言2「いじめは加害者が100%悪い。被害者には何の問題もない」
妄言3「いじめっ子も被害者です」
妄言4「いじめなければいじめられる」
妄言5「心やさしい子がいじめられる」
妄言6「出席停止は最後の手段である」
妄言7「出席停止は対症療法に過ぎず,本質的な解決にはならない」
妄言8「管理教育・受験偏重教育がいじめを生む」
妄言9「いじめる奴はいじめる。いじめられる側が強くなるしかない」
妄言10「いじめを根絶しなければなりません」


→著者の主張はシンプルで説得力がある。


一般社会で犯罪になる行為は学校でも犯罪として扱い、処罰や厚生は司法機関と協力して行うべきだ。ただし、刑法上、罪にはなっても、一般社会ではよほどのことがないかぎり犯罪にならない行為(名誉毀損、侮蔑など)は除く。 p162


いじめ予防には、「いじめは卑しい行為である」という価値観の押しつけが不可欠である。それは、いじめ被害者の心も救うし、傍観者のいじめへの視線が冷淡になることによって、いじめも減少する。P179


「『先生は様々な手段を講じていじめを予防する。それでも時おり先生の目を盗むように小さないじめが起きる。調子にのっていじめっ子がやりすぎると先生に見つかって大目玉を食う。そんな経験をくりかえしながら、『規範の内面化』と『いじめ免疫の獲得』が同時進行していく』」p177