蠅の王

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蠅の王
ウィリアム・ゴールディング S48 集英社


【内容、ウィキペディアより】
未来の大戦中、疎開に向かう少年達を乗せた飛行機が墜落し、少年達は南太平洋の無人島に置き去りにされる。この状況設定はジュール・ヴェルヌの『十五少年漂流記』やロバート・バランタインの『珊瑚礁の島』など19世紀以前に流行した「孤島漂着もの」のパロディであるが、本作はこれらの作品とは正反対の悲劇的な展開となっている。


最初法螺貝を中心に規則を作って協力し合っていた少年たちは、次第に内面の獣性が目覚め些細なことで対立を繰り返すようになる。やがて闇に潜む「獣」に脅え、狂気にとらわれた少年たちはついに自分たちの仲間の少年を集団で手にかけてしまうに至る。


【雑感】
 子どもたちは、大人たちがそうであるのと同じように残酷である。けっして純粋無垢で穢れのないものではない。そんな子どもたちが無人島に放たれたらどうなるだろうか? どんな悲劇が起こるだろうか? 私は、本書はそんな一種の思考実験をしてみた小説だと思っていた。以前から、この小説の内容については知っていたからである。


 しかし、この『蠅の王』はそれだけではない。人間にまといつく狂気。内在する狂気。息を吸い生ける狂気。 混沌とした宇宙から、ふと、雨が降っているのに気づいて、声が出ない。雨闇に飛び出して、狂い散りたくなる。そんな狂気を「蠅の王」や「けもの」に具象化しているのではないか。


 個が集団で生きる狂気。


ラストでは、少年たちは他者に対する殺意に支配される。少年たちの争いから、島は灰燼に帰した。狂気と混乱の中にあった少年たちだったが、救助に来た海軍士官にあったとき、少年たちはさめざめと涙をこぼした。少年たちの人間性が突然として「回復」したことが示されているといえる。


 主要登場人物のラーフは「ぼくらは初めはいっしょに団結してやっていたんです……」と海軍士官に言う。それまでの狂気とあいまって、強烈な印象を残すクライマックスであった。