告白

告白
湊かなえ 双葉社 2008


【アマゾンの内容紹介より】
我が子を校内で亡くした女性教師が、終業式のHRで犯人である少年を指し示す。ひとつの事件をモノローグ形式で「級友」「犯人」「犯人の家族」から、それぞれ語らせ真相に迫る。選考委員全員を唸らせた新人離れした圧倒的な筆力と、伏線が鏤められた緻密な構成力は、デビュー作とは思えぬ完成度である。


【感想】
おすすめ!
非常におもしろかった。おもしろすぎて、一晩で読んでしまった。こんな読書体験をするのは、実に久しぶり。


本書は、終業式の日、その日で学校を辞めることになる中学校の女性教師、森口の「告白」で始まる。自分のクラスの教壇に立ちながら森口は、このクラスの生徒二人に娘は殺された、「告白」するのだ。それが第一章。
以下、第六章に続く終わりまで、殺人者や復讐者の手記といった、一人称形式で、物語は、構築される。


第一章は、終業式の日、クラスの終礼で、生徒(A君とB君)に娘を殺されたと語る中学校教師の告白。
第二章は、元担任の告白後の、殺人の主犯格への凄惨ないじめといった、クラスの混乱した様子を伝える、クラスメイトの手記。
第三章は、元担任の告白後、不登校になった殺人の共犯者に殺された、その母の、狂愛を書いた日記。
第四章は、混乱の末、自分の母を殺した殺人の共犯者の独白。
第五章は、殺人の主犯格の、母へのゆがんだ愛情を示す遺書。
第六章は、殺人の主犯格に、新たなる復讐をつげる、森口の電話。


一人称小説の魅力を十分生かしていて、なかなか、読み応えがある。
また、流れるような饒舌な語り口が魅力的で、読んでいて飽きない。もっともっと、どんどんどんどん、読み進めたくなる。構成に無駄がなく、語りのほとんどは伏線となり、終末に向かっていく。


本書の魅力をもう一つ上げるならば、主要登場人物、全員が、微弱かもしれないが、狂気にとりつかれていることだろう。森口も、殺人犯も、その他登場人物も、極めて自己中心的だ。また、残酷で薄汚い自分の人間性を、どこかにはっきりともっている。自分の語りの中で、それを隠そうともしない。堂々とそれらを吐露する。
登場人物は狂気にとりつかれ、残酷な行動に出るのだ。また、狂気にとりつかれるのは、人間個人だけではない。人間をとりまく空気そのもの、あるいは人間関係。それらにも、ねっとりとした狂気がとりつく。
狂気は悪意に変質する。
静かな狂気、熱い狂気。弱い狂気、強い狂気。自覚的な狂気、無自覚な狂気。それらが混然となって、この魅力的な作品世界を構成しているように思う。
狂った心と心の絡み合いこそが、本書の最もおもしろい部分なのである。


ネットで感想を拝見してると、「後味が悪すぎて辟易した」とかいう感想をたくさん見かけた。なんか、はあ? って感じ。文学作品に後味がどうのこうのいうのもちょっと、? だし、そもそも、この程度で「後味が悪い」って、どんだけ、本を読んでいないのだろう?


【なるほど!、と思った指摘】
「本を読む女。改訂版」
http://blog.zare.boo.jp/?eid=823163
「しかし構成がうまいなあ。第一章のラストの衝撃はまず凄まじい。
その第一章を補足するような形で、第二章以降が綴られていき、
語り手が変わることで双方向の視点が持てて、作品自体が拡がりを持ち、
それを踏まえて最終章であえて原点回帰したような。なるほど見事な収め方だ。」